“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2016.09
AI技術者に殺到するヘッジファンド

 ヘッジファンド業界は今、大きな変化に襲われています。元々金融業界というところはコンピューター化の波に晒されやすいところですが、特にここ最近のAI、人工知能の発展によってヘッジファンド業界全般が驚くベき影響を受けつつあるのです。その実体を追ってみます。

●ヘッジファンド人気低下で、余儀なくされるAI導入
 ヘッジファンド業界は今、大きな資金流出に苦しんでいます。何しろ期待する利回りを上げることができないのです。今年もブレグジット(※ブレグジット(Brexit):Britain(イギリス連邦)とExit(退出)を組み合わせた造語)という思いもしないような英国の国民選挙でEU離脱が選択されるということがありました。また日本だけでなく世界的に異常な低金利となって、収益を安定的に上げる投資対象がありません。実際、多くのヘッジファンドは、運用成績が思うような水準にまで届かないために解約の憂き目にあっているところも多くなってきました。米国株は今年に入って好調な動きとなり、ナスダックは史上最高値を更新中ですが、そのような勢いにヘッジファンドの運用成績は追いついていません。これでは投資家としてはヘッジファンドの運用を任せるより、自らナスダックのETF(上場投資信託)でも購入している方がいいわけです。
 このため、ここにきてヘッジファンドからはかつてないほどの大量の資金が流出中です。今年7月にはヘッジファンドから252億ドルの資金流出があったのですが、これは2009年4月以来の大きさで、あのリーマンショック後の解約ラッシュに次ぐような状態に至っているのです。
 一連のヘッジファンドの人気低下の中に、ヘッジファンド業界における構造的な変化も起こっています。
 それは人間が主体となって行う投資手法より、ヘッジファンドの中でもAI(人工知能)を主体として行う投資手法の方が運用成績が各段に良くなってきているのです。
 ヘッジファンド業界では今までの勘や経験に頼るようなスーパースターのカリスマ投資家の影は薄くなってきて、AIを駆使したコンピュータートレーディングを多用するところが絶対的なリターンを取るようになってきています。かようにヘッジファンド業界にもAIによる驚くべき侵食がなされてきているのです。

 すでに日本でも、ロボアドバイザーと称するロボットを使った投資アドバイスの提供などが人気となっていますが、ヘッジファンド業界ではこのような単純で簡易なアドバイスを送るようなロボットでなく、もっと極めて精巧な現在のAIの技術の最先端の結晶を集めたような投資プログラム構築が目指されているのです。

 グーグルの開発した<アルファ碁>が世界チャンピオンに勝利したということでAIの飛躍的な発展が世間の話題になるようになってきましたが、実際の研究の最前線においては当然、研究結果が現実的な膨大な金銭的利益となる研究が最も好まれるわけです。いくら碁の勝負に勝っても膨大なマネーを得られるわけではありません。
 <アルファ碁>のような超知能を駆使した卓越したAIであれば、実戦で市場取引にトレーディングとして投入して、必勝のトレーディングロボットを作った方が膨大な資金が稼げるわけですから、最高の研究は残念ながら、ヘッジファンド業界における、投資の必勝法の方に頭脳流出が加速しているのが実情です。研究者としても、ヘッジファンド業界に入れば資金を湯水のように与えてもらえますし、思うような研究ができて実際、金銭的にも次元の違った潤いになるというわけです。唯一、学術的な名声を得られないということはあるかもしれませんが、それを求めないのであればヘッジファンドに移籍した方がいいという考え方です。
 AIはここにきて驚くべき進歩を遂げたわけですが、実はその一端がヘッジファンド業界に大きな影響を与えつつあり、業界の勢力図の圧倒的な変化として現れてきたのです。

 どのような変化が起こってきたかというと、ヘッジファンド業界において上位を独占するヘッジファンドがほとんどAIを駆使したファンドに変わりつつあるのです。2008年リーマンショック後に大規模な市場変動があって、ほとんどの米国の銀行大手が破産寸前の危機に直面した事態がありました。この時は世界中が破たんするのではないか、と思われるほどに株式市場が暴落して為替市場が驚くほど動き、世界各国の経済成長率が深刻な水準にまで低下してしまいました。それから8年近く経つ今も尚、その時の後遺症が残っていると言われています。そしてそのリーマンショックの最中、米国の議会公聴会でヘッジファンドの大物が数人召喚され、議会証言を求められました。このうちの3人はソロスファンドのジョージ・ソロス、ポールソン・アンド・カンパニーのジョン・ポールソン、ルネッサンス・テクノロジーズのジェームス・シモンズでした。ソロスもポールソンもカリスマ的な投資家と言われ、リーマンショック時も大きな利益を得たと言われています。2008年当時はかようなカリスマ的な投資家がヘッジファンドの雄としても目立っていた存在でした。その中で膨大な利益を上げながら、その投資手法は公言することなく、秘密主義を守っていたのがルネッサンス・テクノロジーズのジェームス・シモンズでした。
 このシモンズだけは、ソロスやポールソンに比べても、その後も順調な運用成績を誇り、昨年のヘッジファンドの収益ランキングでもトップだったのです。紆余屈折の大きなヘッジファンド業界にあって、このルネッサンス・テクロノジーズは完全なコンピュータープログラムを組んで市場で利益を出そうと試みているファンドでした。数学や物理の天才を要して相場に必勝のプログラムを開発してきたのです。

 そして昨今のヘッジファンドの流れは、かようなAI研究を基盤としたプログラム開発が徐々に主流になりつつあって、かつてのカリスマ投資家の影が薄くなりつつあるというのが実情です。世間ではAIの発展で、将来多くの職が奪われるというような話題が盛んになっていますが、投資の最前線であるヘッジファンド業界において、そのようなAIを使った投資という大波が投資のスタンダードとなるかのような勢いで業界全体を襲ってきているわけです。

●繰り広げられるAI天才的技術者の争奪戦
 ヘッジファンド業界全体でみると、運用資産は減少傾向となっています。ヘッジファンドリサーチによると、ヘッジファンドの残高は2007年には1兆8684億ドルと、2000年当時と比べて3.8倍に膨らんだのですが、やはりリーマンショック後は大きく落ちてしまったのです。
 それが時間の経過とともに再び盛り返し、2016年夏現在では2兆7000億ドルと大きく増え続けていたのです。それがこの7月は単月で大きな減少となりました。というのもヘッジファンドが運用手数料が高く、それに見合った運用成績を上げていなければ余計に手数料が高いだけ、運用を任せるのがバカバカしいということで、機関投資家や年金など大手の投資家から見放されてきている状況なのです。

 そのような中にあって、昨年のヘッジファンド業界収入実績の上位10社のうち5社までもが、AIを有したヘッジファンドというように変化してきたのです。まさにAIの使い方とその精度がヘッジファンドの帰趨を決めるようになってきたようです。<アルファ碁>の衝撃を見ればわかるようにヘッジファンドは競って、AIの天才的な技術者を引き抜こうと必死になってきました。<アルファ碁>では碁の勝負に勝利するだけでしょうが、仮に必勝の投資プログラムを完成することができれば、膨大な利益を恒常的に得ることができ、ひいてはその膨大な利益を下に世界を牛耳れるかもしれません。
 そのため、ヘッジファンド業界では破格の条件で、AIの天才的な技術者の争奪戦を始めたというわけです。すでに現在の人工知能の分野では最先端を走っていてソフトバンクのロボットPepperの基となっているIBMのワトソンを開発したデビット・フェルリッチ氏は、2012年にIBMから世界最大のヘッジファンド、ブリッジ・ウォーターに移籍しています。さらにブリッジ・ウォーターには今年、アップルからiPodを立ち上げた幹部であるジョン・ルーゼンスタイン氏も移籍しました。また、最近急激に伸びている同じくAIを利用したコンピュータープログラムで大きな実績を出してきたヘッジファンドのツーシグマにも、グーグルから機械学習、会話認識、自動翻訳の研究部門のトップであったアルフレッド・スペクター氏が移籍しました。
 現在AIの分野では米国勢が圧倒的に強く、グーグル、アップル、IBM、フェイスブックなどが大きく先行しています。その一番研究が進んでいるエリアから、実は膨大な資金が飛び交ってヘッジファンドへの移籍が活発になっているのです。
 これらの移籍金額がどの程度かは、公表されていませんからわかりませんが、これはサッカーで見るブラジルのネイマールとか、ポルトガルのクリスチャーノ・ロナウドのような百億円単位の金額が動いているものと噂されています。かように<アルファ碁>で明らかになったAIの発展を受けてヘッジファンド業界では業界の生き残りを賭けて恐ろしいほどのAI技術者の引き抜き合戦が始まっているのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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