“超プロ”K氏の金融講座
このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
「米国で社会主義を導入しようという声が上がっていることを警戒している」
2月5日、トランプ大統領は一般教書演説で米国の現状について警鐘を鳴らしました。
そしてベネズエラについて言及し、「社会主義が南米で最も裕福だった国を悲惨な貧困と絶望に陥れた」と現在のマドゥロ政権をこけおろしたのです。さらに強い言葉が続きます。
「米国は社会主義体制のような抑圧や支配、管理でなく、自由と独立の上に成り立っている。私たちは生まれながらに自由であり、今後も自由であり続ける。決して社会主義国にはならない!」
この瞬間が今年の一般教書演説のクライマックスとなりました。議会は満場拍手で包まれたのです。この時、民主党の大統領候補、サンダース上院議員の憮然とした表情が映し出されました。この光景だけを見れば、「さすがに自由の国、米国の姿だ」と思うかもしれませんが、現実の米国の形は大きく変わりつつあります。
●資本主義の本家、米国で社会主義が広がる事情
2020年の米大統領選挙はトランプ大統領が再選するのか、民主党の大統領が生まれるのか、世界の最も大きな関心事でしょう。日本の多くの人から見ればトランプ大統領の再選はないだろうと考えそうですが、現実には米国においてトランプ大統領の人気は衰えていません。昨年行われた中間選挙においても、共和党の候補者たちはこぞってトランプ大統領の応援を求めていました。結果、トランプ大統領率いる共和党は負けましたが、中間選挙においては野党が強いのが伝統ですから、共和党としては善戦したと思われます。
2020年の大統領選挙においては現在まで民主党の候補者が乱立気味で強い候補者が出てきていません。知名度でも人気でも現職のトランプ大統領に太刀打ちできていないのが実情です。米国では「アンチトランプ」の有権者も多く、このままではトランプ大統領の再選を阻止することができないという危機感も広がっています。
かような情勢下、米国では民主党がますます左傾化して、社会主義的な政策を打ち出す候補者ばかり出てきています。
選挙において主張が異なるのは当然ですから左右両方の候補者が出るのは自然ですが、最近の傾向として右は右で極端な排斥主義や、トランプ大統領のような自国第一主義を唱える候補者が多く、逆に左は左で、米国において社会主義を標榜したり、現実に社会主義的な政策を押し出す傾向が顕著になってきています。むしろ民主党では、どの候補者も社会主義的な政策を全面に押し出して戦う傾向が強く、そのあまりに過激な社会主義的な政策には驚かされるのです。トランプ大統領が一般教書演説で社会主義の脅威について言及していましたが、現実的には、米国での社会主義的な政策を求める傾向は日々広がってきているのが実情です。資本主義の本家である米国でかような現状となってきたのは驚きでもありますが、それなりの原因もあるわけです。
やはり<格差の拡大>が止まらないということが大きいわけです。
この<格差の拡大>は現在、世界中で問題となっていることではありますが、所得格差の拡大は年々縮小するどころか広がる一方で<持てる者>と<持たざる者>との差は拡大しています。<勝ち組>と<負け組>、<時代の流れに乗っている人>と<時代から取り残された人>、テクノロジーの飛躍的発展や移民の急増など、これは現在の世界の縮図でもあります。
中国や新興国のように、貧しいところから裕福になっていく過程において人々は皆、豊かさを求めていくわけで、かような状況においては誰もが豊かになれるという希望が持てるわけです。ところが成熟した先進国においては既に豊かさを享受した後ですから、その状態から長いトンネルのような低成長になって、その間、格差が広がっていくので、人々は先行きに希望が持てず、社会に対して不満や失望が大きいわけです。
現実問題として米国における所得格差は年々収まるどころか拡大する一方です。1979年から遡ってみると、年収の上位0.1%と上位1%の人の収入は現在まで各々4.4倍、6倍と大きく増えています。一方で年収の下位90%の人の収入は22%しか増えていないのです。凄まじい格差の拡大です。また多くの人が家も持ちづらくなっています。
直近の持ち家の比率をみると、米国人全体をみると2004年は69%の人が持ち家を保有していたのに対して、現在ではその比率が64%とわずか15年の間に5%も落ちてきています。このような所得格差拡大の流れは、持ち家の状況だけでなく教育を取り巻く環境にも及んでいます。大学を目指す若者の状況も悲惨です。あまりに授業料が高すぎるのです。現在米国において4年制大学の学費は年間3.6万ドル(約400万円)で30年前に比べて倍加しています。このため、学生は学費を払うのが大変で、学生ローンの残高は増える一方です。
現在、米国の学生ローン全体の残高をみると1.5兆ドル(約166兆円)と驚くべき膨大な額となっています。当然就職後、そのローンを支払う必要があるわけですが、皮肉なことに現在では大学を出ても思うような職につけないケースも多々あるわけで、結果、学生ローンの支払いに難をきたすケースが続出しているのです。
このため、学生ローンの借り手のうち、その17%がローンを返すことができなくなっているという悲惨なこととなっています。かような現実をみれば若い人を中心として社会主義に対しての憧れを抱くようになってきているのも納得出来るというわけです。
●米国での左右極端な政策の主張、そして欧州でも混乱がとまらない
米国の政治シーンにおいて、この弱者に対しての訴えが激しくなっています。民主党の候補者は彼らに対して、富裕層への増税や企業への増税など、極端な社会主義的な政策を提示して支持を広げています。
前回の大統領選挙において、その民主党候補を決める予備選の段階で、民主党の本命とみられていたヒラリー・クリントン元国務長官とサンダース上院議員は激しく争いました。
サンダース氏は自らを社会主義者と公言して、大学の授業料の無償化や<国民皆保険>など社会主義的な政策、いわゆる<大きな政府>を目指す政策を主張したわけです。
この時、クリントン氏とサンダース氏が争った大きな争点の一つは<国民皆保険>の導入でした。サンダース氏は国民皆保険制度の導入を主張、クリントン氏は反対でした。
というのもクリントン氏の主張通り、<国民皆保険>はその財源の大きさから実現不可能と思えたからです。日本では<国民皆保険>で誰でも安い価格で医療が受けられます。
もっとも、高齢化によって、日本でも将来的な財源の問題が今後の大きな課題となっています。日本でできているので米国でも日本のように<国民皆保険>が導入されてもおかしくないように思えますが、実は米国と日本の状況は全く違います。
米国では黒人やヒスパニックなど低収入の人が多く、仮に<国民皆保険>を行えば医療費は天文学的な額となります。しかも米国と日本の医療費を比べると、米国の一人当たりの医療費は日本のそれの2.5倍にも達しているのです。これでは財政が破綻してしまいます。
かような米国における<国民皆保険>制度の導入は常識的に考えて不可能です。ところが現在民主党から立候補している大統領候補者は全て、この<国民皆保険>制度を公約と掲げているのです。民主党候補全体が左傾化して極端な政策を公約とするようになってしまいました。
前回の選挙では過激な<社会主義者>と罵られたサンダース氏の公約は今では民主党大統領候補の<普通の政策>となってしまったのです。この民主党全体の左傾化は驚きであると共に恐怖です。
さらに民主党候補は<グリーン・ニューディール>政策なるものを打ち出してきて、これも民主党のほとんどの候補者が賛成しているのです。この政策によれば全ての化石燃料を10年以内に再生エネルギーに置き換えるというのです。これによって電気自動車や高速鉄道を整備、燃料を大量に消費する自動車や航空機の使用をゼロにするというのですから驚きます。かつて大恐慌時のニューディール政策を、地球温暖化を防ぐために、グリーン・ニューディール政策と衣替えして地球全体の燃料革命を目指すという広大な構想です。これも民主党の公約となりそうな勢いです。
これに対してトランプ氏は「飛行機も車も石油も軍隊も全部なくなってしまうのは結構なことだ」と強烈な皮肉を送っています。
かように米国では政治情勢も政治家全体も政党も左右が極端な政策を打ち出すようになっています。世界中の政治情勢をみても今や、中道政党は没落するばかり、極端な主張やできない公約を振りかざすポピュリスト政党ばかり人気化、票を取るようになってきました。
米国で2020年大統領選挙において、トランプ大統領が再選されるのも大きな懸念要因と思えますが、逆に民主党左派の社会主義者の大統領が生まれるのは、トランプ氏の再選以上に混乱を招きかねません。すでに欧州ではイタリアやハンガリー、ポーランドなどポピュリスト政権が誕生して政治を混乱させています。フランスでもマリーヌ・ルペン氏率いる国民戦線が人気を復活させています。
英国では保守党が分裂気味で政党として体をなさず、ブレグジットの行方がどうなっていくのか先行きが全く見えません。しかしながら英国でも保守党に変わって労働党政権となると、米国の民主党のように左派の勢いが止めどもなく社会主義化が進みそうなのです。そのようなシナリオを識者は最も恐れています。
かように欧米各国並びに民主主義国家の政治情勢はますます混迷化して民意も政治も分裂が激しくなっています。気象変動も激しさを増していますが、地球全体も人類全体も、各国の政治も経済もあらゆるものが混沌としてきました。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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