“超プロ”K氏の金融講座
このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
「2020年に世界で食料不足に陥る人が2019年から倍増し、2億6500万人に上る恐れがある」
国連の世界食糧計画は食糧危機到来について警告を発しています。4月21日に開催されたG20農相会合において「輸出入の不当な制限が行われないように注意する」との共同声明を発表して食料輸出国に対して呼びかけを強めています。さらに同じく4月21日、国連食糧農業機関(FAO)や世界保健機構(WHO)また世界貿易機関(WTO)なども連名で共同声明を発表、「食料輸出国は過度な輸出制限を控えるように」と呼びかけました。
日本は現在<ホームステイ週間>ということで国を挙げて今回のコロナウイルス対策を進め、ほとんどの日本人は家にこもって過ごしていることと思います。かような中、日本政府は「食料品はじめ日用品の在庫は十分ありますから買いだめをしないように」とアナウンスしています。今回のコロナウイルスの騒ぎで日本国民全般に不安感が高まっていることと思いますが、今後世界、そして日本の食料事情はどうなっていくでしょうか。
●今後の世界の食料事情の行方
日本では物価は低迷し、物の価格はあまり上がらないので、食料危機が来ると言ってもピンときません。野菜など一部生鮮食品の上昇は見られますが、それが全般的な物価上昇になっていくとはとても思えませんし、逆にこれだけ国民の多くが巣ごもり状態となっては経済活動が低迷するわけですから、物価は下がることはあっても上がるとは思えないわけです。
しかしながら水面下で進んでいる世界の状況や今後、このコロナウイルスの問題で世界や日本が影響を受けることで生じている現実と、今後の行く末も考えておく必要があるでしょう。
現在の主要穀物の国際価格をみると、小麦やコメなどの価格は着実に上昇してきているのです。日本ではコメの価格は安定していますし、むしろ低下傾向なのですが、国際的な価格の動きは違います。
例えばコメですが、代表的なタイ米の価格は年初の1トン400ドルから4月には580ドルと5割近く上昇しているのです。小麦の価格もじわじわ上昇しています。
現在はコロナウイルスの問題が全世界に波及して、様々な事情が同時に起こってきています。それらが複雑に絡み合って通常とは違う形での食料価格上昇を引き起こしそうな気配なのです。
まず小麦ですが、ほぼ世界的に豊作です。豊作で小麦の全世界における供給量は十分あるはずなのです。ところが小麦だけではなく農業全体に見られる傾向ですが、実は農業従事者が極端に不足しているのです。農業の仕事は大変な肉体労働です。米国でも欧州でも農業従事者は主に海外からの季節労働者か移民などです。
特に米国では、農業においてはメキシコをはじめ、中南米からの不法移民が大きな労働力となってきました。ところが今回のコロナウイルスの騒ぎで、この移民が極端に制限されるようになりました。基本的に国境を閉じていますし、国をまたいで移民がやってきても、基本的には2週間、どこかに待機してもらって、コロナウイルスに感染していないことが確認されて働いてもらうわけです。ところがそもそも農業従事者のような力仕事は多くの人々が密接に近づいて行う仕事です。いわば感染リスクは極めて高いわけです。しかも移民の多くは医療保険など加入していません。仮に彼らがコロナウイルスに感染した場合、まともな医療を受けられる体制が整っていないわけです。
こういう事情もあり、いつもは中南米や東欧からの労働者で溢れる欧米の農業地帯に労働者がやってこないわけです。米国でも欧州でも現在爆発的に失業者が増えているわけですから、彼らが農業の担い手となればいいように思えますが、現実には、これを読んでいる読者がいきなり農業の仕事を行え、と言われても戸惑うのと同じで、実際には欧米先進国の自国の労働者はきつくて低賃金の農業仕事などできないわけです。
こうして欧米諸国では街は失業に溢れかえっている状態なのに、農業従事者が確保できないという皮肉な状態となっているのです。となると農家で作物がとれたとしても、それを収穫することができません。よって作物が腐ってしまうというわけです。
さらに作物ができたとしても、それを運ぶ手段に窮しているのです。どこの地域でも経済活動を自粛していますので、これら作物を運ぶトラック運転手が見つかりません。こうして作物は収穫することもできず、運ぶこともできない状態となっているのです。
さらに事が上手く運んで、できた農作物を収穫できて、それをトラックで港に運ぶことができたとしても、今度は輸出入などでは、税関の手続きなど様々な輸出入の手続きを行わなければならないのですが、これを行う税関の職員がいません。さらにこれら全ての問題はクリアーできたとしても、極端な船員不足によって最終的に船が動いていないわけです。航空便も動いていません。こんな状態でどうして輸出入ができるというのでしょうか? よって、物が届かないわけです。物流がほぼストップしているというわけです。日本は食料自給率40%です。ほとんどの食料を輸入に頼っているわけです。かような現実があるのに、世界の輸出入が機能していない状態で、日本において今までのように普通に手頃な価格で食料が入り続けると思いますか?
現在のところ、具体的に食料の輸出規制をかけている国はロシア、ウクライナ、ベトナム、タイ、カンボジア、トルコ、カザフスタンなど世界で13カ国です。2010年エルニーニョ現象に見舞われたロシアは小麦生産量が4200トンと前年に比べて30%以上も生産が落ちるという事態となりました。その時ロシアは国内の物価上昇を抑えるために輸出を停止しました。これによってまともに影響を受けたのが中東諸国だったのです。小麦が手に入らなくなって小麦の価格が上昇、結果、パンの価格が急騰してしまいました。食えなくなった民衆は怒りを爆発させたのです。
怒った民衆が次々と暴動を起こし、チュニジアから始まった暴動は政府転覆の波となり、政変は一気に中東全体に広がっていったわけです。エジプトのムバラク政権などがあっさり倒れたのはこの時です。<アラブの春>と呼ばれた中東の地図を塗り替えた大混乱の勃発でした。現在そこまでの情勢には至っていませんが、今後要注意です。
現にアフリカ諸国では、バッタが大量発生、食料を次々に食い荒らしていて、すでに国によっては食料危機が起こっているのです。
アジアに目を向けてみましょう。タイやベトナムなどのコメの代表的な生産国が、なぜ輸出規制をかけるに至ったのでしょうか。もちろんコロナウイルスの問題から先に指摘したような物流の問題が生じてきたこともあるのですが、実はそれだけではないのです。
タイもベトナムも、コメの生産自体が極端に減少しつつあるのです。これは昨今の異様な気候変動によるものです。コメの生産は水田というくらい水が必要となります。タイでもベトナムでも、川の下流に位置していますので、この川の水が豊富で、水田が容易に作られ、コメが大量に取れるわけです。ところがこの巨大な川、タイではチャオプラヤ川、ベトナムではメコン川ですが、これらの川の上流において、昨年夏から降水量が極端に少なくなって、例年の3割減となっているというのです。そのため川に流れる水が極端に少なくなっているわけです。悪い事に、川の上流ではダムが数多く作られているので、余計に下流に水が来なくなっているわけです。酷いところでは海から川に水が逆流してきてしまって、水田が塩害に犯されてしまっているということです。タイの調査会社によると今の干ばつ状態が6月まで続けば、2-7月のタイのコメの生産量は前年比で半減するというのです。
かような状態となっては、コメの輸出規制を行うのもやむを得ないというわけです。問題はかような気候変動の問題は恒常的になる可能性が高く、1年限りで済む問題ではないということです。
タイとベトナムは、コメの輸出において全世界の40%のシェアを占めています。この両国がコメの輸出ができないとなれば、世界の食料事情における影響は計り知れないでしょう。
●日本の今後の食料事情はどうか?
日本に目を向けてみましょう。現在のところ、輸出規制を行っている13カ国から日本への食料輸出はほとんどありません。そういう意味では日本は当面食料の輸入に問題が起こる局面ではありません。しかし油断はできないのです。
というのも、日本は小麦の海外依存度は88%、大豆は94%、トウモロコシはほぼ100%です。日本はコメを除いて主要な穀物はほとんど海外からの輸入に頼っているわけです。
日本の主な輸入国は、米国や豪州、ブラジル、カナダなど友好国ですから、一見輸出規制などの問題は起きないように思えますが、今後はそう簡単にいかなくなる可能性もあります。
というのは先に書いたように、どの国も自国での生産に重大な支障が起きてくる可能性が否定できません。米国はコロナウイルスの感染拡大が止まりませんし、ブラジルはこれから冬に入ってきますから、感染爆発する可能性も高いでしょう。輸出どころでなくなる可能性もあります。現にトランプ大統領も必死で農業生産を軌道に乗せようとしているのですが、焦りも見えます。トランプ大統領は4月10日、「あらゆる手立てを講じて食料の安定供給を確保するよう農務長官に指示した」ということですが、現実に農業に従事する労働者も確保できず、経済活動が止まっている状態ではどうなるかわかりません。
しかも、農業の収穫作業はまさに3密状態です。現在のようなコロナウイルスの感染拡大状況で、かような作業が大々的にできるのでしょうか。仮にこれら米国やブラジルなどで農業の生産ができなくなれば、あっという間に日本への供給が滞る事態が生じてくるでしょう。
コロナショックは始まったばかりです。コロナショックは感染への危険ばかりに焦点が当たっていますが、実は経済活動の停止によって生じる、深刻な第二波も待っているのです。原油の大暴落にみられるように、ほとんどの諸物価は下がっていくでしょう。しかし全く逆のケースも出てくるのです。それも激しく急激に我々の目の前に現れることでしょう。食料価格の高騰が迫っています。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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