“超プロ”K氏の金融講座
このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
「私の素晴らしい友人であり最大限の敬意を払う。彼にとって辞任はつらかったに違いなく、とても気の毒に思う」
8月28日トランプ大統領は安倍首相の辞任について記者団に語りました。
すでに辞任が発表されてから1ヵ月経ち、新しい菅政権も始動しています。長期政権となった安倍首相の功績については様々な意見があります。ただトランプ大統領のコメントや米国政府高官や世界各国の首脳などから寄せられる落胆の感想は本音でしょう。近年これほど世界に影響を与えた日本の首相はいなかったと思います。今回安倍政権について振り返ってみようと思います。
●安倍政権を振り返る
「首相になれるというのは天命」。総裁選で敗れた石破氏は天命がなければ首相になれない、という一種の運命論も語っていましたが、その通りかもしれません。ただやはり、その人の運命を押し上げるのは、それなりの実績とある重大な局面での決断も大きな要素となっていると感じます。安倍首相は様々な功績を残したわけですが、私が強く印象に残っているのは二つの出来事です。
一つは2002年、安倍首相が官房長官だった時代のことです。当時の小泉首相は拉致被害者を取り戻すため北朝鮮を訪問し、当時、北朝鮮のトップであった金正日委員長とトップ会談を行いました。そこに安倍官房長官も同行したわけです。会談の結果、5人の日本人拉致被害者が日本へ一時帰国することとなりました。今でこそ日本と北朝鮮との関係は著しく悪化していますが、当時は拉致被害者の返還ということで、一時的にも日朝の友好モードができてきた時でした。
当時、日本全体が横田めぐみさんが帰ってくることを期待し、それが実現されると信じていたわけです。ところが無情にも北朝鮮側から多くの拉致被害者の死亡が報告され、やっと5人(蓮池夫婦、地村夫婦、曽我さん)だけが帰ってきたという結果に終わりました。そしてこの時、北朝鮮との約束によって、この5人はあくまで一時帰国であり、その後、北朝鮮に戻る約束になっていたのです。当時の外務省は「北朝鮮との国家間の約束だから、それを守る必要がある」という立場でした。もちろん日本側にも様々な意見があったわけですが、当時は北朝鮮との友好関係を構築していくというムードもあったのです。
そこで5人が北朝鮮に再び戻されるという約束を実行しなければならないという状況のなかで、忽然と帰国拒否を主張したのが当時の安倍官房長官だったのです。
今考えれば、帰国者5人は北朝鮮の犯罪で連れ去られたわけですから、返す必要はないとの考えが極めて当たり前の考えなのですが、当時はやっと北朝鮮との国家間の取り決めができて、お互いに国家間の信頼関係を築いていくという最中でしたから、特に小泉訪朝までやり遂げてきた外務省には、一旦5人は約束通り北朝鮮に送り返すべきである、という主張も強く、そのようになる状況だったのです。そこで彼ら帰国者5人とじっくり話した安倍官房長官は「帰国者がかわいそうだろう」として「決して帰国者5人を再度北朝鮮に返すべきではない」と強く主張したわけです。もちろん国内世論もその考えに賛同していきました。
結局、安倍官房長官の強い要請に押される形になり、今考えると極めて当然のことですが、5人は日本に留まることとなったわけです。こうして当時の安倍官房長官は、ここで強いリーダーシップを発揮して外務省を強引に説き伏せたこと、そして日本の世論を喚起して「帰国者を二度と北朝鮮に返さない」という当然のことをあたり前のように断行した、政治家としての強い姿勢を見せたことが、後の安倍首相誕生への流れを作ったと思います。
もう一つ印象に残っているのは、2016年、米大統領選挙で予想を覆してトランプ氏が大統領に当選した時です。安倍首相はいち早くトランプ氏のもとに挨拶に行ったわけです。ところがこのトランプ氏への訪問に対して外務省は大反対しました。当時トランプ氏は大統領選挙に勝利したものの、まだ正式に米国の大統領になっていたわけではありませんでした。大統領に就任するのは2017年1月でした。そのトランプ氏を2016年中に会いに行くというのは外交上、極めて異例なことであり、依然職務を執行している当時のオバマ大統領や米国政府に対して礼を逸しているというわけです。それはその通りだと思います。しかしながら当時の安倍首相は「そんなことを言っている場合ではないだろう」と外務省の意見を一蹴して世界の首脳に先駆けてトランプ氏訪問を断行したわけです。
この時安倍首相はトランプタワーにゴルフクラブを持って駆けつけ、トランプ氏の家族にもおみやげを持って挨拶、好意を最大限に示したわけです。これがその後の安倍、トランプ関係を強固にした始まりとなりました。
これは安倍首相やそのブレインが、トランプ氏の性格を詳細に分析した結果の行動だと思います。トランプ氏は極めて攻撃的な人物ですが、身内には極めて甘く、一度信頼するとそのような信頼関係を大事にする人物です。特異な性格のトランプ氏と如何にすれば友好な関係を築くことができるか、安倍首相は直感的にわかり、友好関係を築くことに注力したわけです。
日本にとって米国との関係は極めて重要であり、日本の首相が米国大統領と友好な関係を築くことは、日本にとって重要な国益となります。その一番重要なことを極めて人間臭い、泥くさい手法で成し遂げた安倍首相は見事だったと思います。
●長期政権と日米関係との相関
日本の首相でも長期政権となってきた政権を振り返ると、例外なく、米国大統領との関係が良好なのです。1980年当時から振り返っても、中曽根内閣は長期政権となりましたが、中曽根首相は当時の米国大統領レーガン氏と極めて良好な関係を作り上げました。
レーガン、サッチャー(英国首相)、中曽根と世界をリードする首脳の姿を世界に見せたのです。当時、日本人の多くが中曽根首相が世界のトップと堂々と対等に渡り合う姿を見て世界における日本の地位向上を感じて喜んだわけです。中曽根、レーガン関係は、ロンヤス関係と言われました。
また日本の政治の中で、中曽根政権の後に長期政権となったのは小泉政権でした。小泉首相は、米国のブッシュ大統領と極めて仲が良く、気の合う関係と言われてきました。ブッシュ大統領は各国首脳と会談を行う際は<まず小泉だ>と言って小泉首相を他の誰よりも信頼していたのです。このブッシュ、小泉関係の良さも日本の国益を押し上げたわけです。
かように日本の長期政権を振り返ると例外なく、米国大統領との蜜月関係がみられます。反対に米国大統領との関係が良くないと、その政権は長く持ちません。普天間の問題でミソをつけて日米関係を著しく悪化させた民主党政権時の鳩山内閣では、当時の鳩山首相はオバマ大統領から沖縄の問題解決を迫られて「ビリーブミー」と「私のことを信じてください」と言ったわけですが、オバマ大統領は全く信頼していなかったようで、これは笑い話となってしまいました。当然鳩山内閣は短命に終わりました。
さて具体的な安倍政権の功績をみてみましょう。株価は日経平均をみると安倍政権誕生が決まった2012年11月の段階の7,000円台から24,000円台まで3倍超に上がりました。長期政権を振り返ると全ての長期政権で株価の上昇が見られるわけですが、安倍政権はその中でも極めて高い上昇でした。その間、日本の名目GDPは2012年の490兆円から2019年には550兆円にまで膨れ上がりました。そして就業者数は500万人超増加しました。
これら経済活性化のもとになったのは、アベノミクスと言われた思い切った経済政策です。それは
1.大規模な金融緩和
安倍首相はそこまでの日銀の姿勢を大胆に変革させ、日銀が長期国債を大量に購入する異次元緩和を断行させました。これらの政策は日銀によって断行されたわけですから、日銀の政策として評価されるわけですが、元を正せば、そのような日銀の変革を目指して、大規模な緩和を行う人事を断行したのは安倍首相です。安倍首相の意志に基づいて、それを実行する日銀総裁を指名したわけで、それが黒田総裁だったわけです。そういう意味では日銀の政策を含めて経済が活性化したのも株が上昇したのも安倍政権の成果です。
2.株高政策
安倍首相の在任期間に株価が3倍超に上昇したことは指摘しましたが、それを演出したものは日銀の異次元緩和政策だけではありません。安倍政権は積極的に国として株高政策を行ってきたわけです。株のことわざに「国策に売りなし」というのがありますが、国が株高政策を取り続けているわけですから基本的に株価は下がりようがないのです。このあたりを多くの国民は理解していないようです。安倍政権は株式投資を身近なものにするため、NISAなど税制面での優遇措置を断行しました。そして国民の大きな財産である年金基金における株式運用の比率の劇的な拡大を決定したのです。国民の財産である年金基金の半分に至るまで株式で運用されることが決まりました。これが世界の資産運用のスタンダードです。株購入を極端に嫌い、資産の半分以上も預貯金だけに投下している日本人の多くは世界標準からみればクレイジーなのです。2014年、日本の年金基金(GPIF)はその運用資産のうち、25%を国内株式、25%を海外株式で運用することに決めたのです。こうなると株式投資は国民にとって極めて重要事項となりますので、企業は株価が正当な評価を得て、上がるように努力してもらわなければならないわけです。
ですから国は、コーポレートガバナンスといって企業に法令遵守を求めて、投資家に正当な権利を与えるように指導しました。さらに株式投資を行う機関投資家に対してもスチュアートシップコードと言って、株主として企業に対して自らの正当な権利を主張するように指導したのです。
全ては国民の財産である年金基金の運用成績を押し上げるためです。こうして日本国は株高政策を断行し、今でもそれをやり続けています。株価が下がると主張している人たちはこの辺の「株高政策という重要な国策」という観点を見えていないのです。朝倉は2012年から一貫して株価は大きく上がっていくと主張し続けています。そして国策の甲斐あってGPIFの運用資産は安倍政権下で5割近く増えたのです。これは極めて大きな安倍政権の功績です、新聞市場などでは、安倍政権の成果として年金基金改革を行って株式投資の比率を劇的に増やして、国民の財産を大きく増やすことに成功した、との記述はほとんどないのですが、私は安倍政権の政策の中でも、この株高政策の断行と、それによって年金基金が大きく増えたことは本当に国民のためになった安倍政権の実績だと思います。
3.外交で日本の地位向上
これは誰もが知っていることで、トランプ大統領との蜜月関係やプーチン、ロシア大統領との関係、メルケル、ドイツ首相はじめ欧州首脳との深いパイプなど数多くの実績があります
4.消費税の二度の引き上げ
これも驚くべき成果です。日本において消費税を引き上げるというのは極めて政権として難しいことです。かつて1980年代後半、当時の中曽根政権を引き継いで、竹下政権ができたわけですが、竹下氏は消費税導入を断行したのです。このため竹下政権は不人気で、政権はリクルート事件というスキャンダルもあり短命に終わりました。税金を上げれば国民がそっぽを向くのは当然です。いわば消費税の引き上げをどの政権でも必要と考えていても、それを口に出すこともはばかられ、ましてや実行するのは極めて至難の技なのです。竹下政権は短命でしたが、政治のプロの間では初めて消費税導入を行った内閣として極めて評価が高いのです。
また1990年代後半、当時の橋本政権は消費税を3%から5%に引き上げました。その途端景気は失速、橋本氏は政策の誤りを国民のわびるはめになり、結局選挙を通して政権を失うこととなりました。そういう意味ではどの政権にとっても消費税の問題は鬼門であり、それを断行する内閣は政治的に窮地に陥って政権維持が難しくなる可能性が高いわけです。その消費税引き上げを二度も行って、なおかつ政権が高支持率を維持していたというのは本当に驚きです。これは歴代政権と比べて極めて強い政治力であって、安倍政権はかつての日本になかった強い、実力並びに人気のある稀有な政権だったと思います。
かような安倍首相は残念ながら病気のために志途中で辞任することとなりました。安倍首相としては、そして国民の多くも安倍首相のもと、憲法改正をやり遂げて欲しかったと思いますが、それはかないませんでした。日本は依然様々な困難な局面に直面しています、「国民ために仕事をする」という実務家である菅新政権の手腕に期待したいところです。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
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