“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2020.10
緊迫する台湾情勢

「中国が前進するための唯一の道は、戦争に向け準備を整えることだ!」 10月6日、中国共産党の機関紙である環球時報は激しい論調で台湾に対しての強硬策を断行することを提案したのです。かつてないほどタカ派的になってきた現在の中国の習近平政権ですが、コロナの波を世界に先駆けて克服した自信が政権のみならず中国全体にみなぎっているようです。まさに<偉大な中華民族の復興>は近いとの高揚した気持ちがあるようです。
 10月23日、習近平主席は「祖国の神聖な領土の分裂を企てる勢力には、必ず正面から痛撃を加える!」と豪語しました。米国を意識しているものと思います。

●習近平は台湾との再統一を目論んでいる?
 そもそも歴代の共産党政権そして習近平主席は、中華民族が世界の覇権を握ることを目指しています。そしてその過程でどうしても成し遂げなければならないことが台湾と中国の再統一なのです。力づくだろうが、何だろうが、中国共産党は台湾を自らの治世下に置かなければなりません。これはおそらく日本国民が「北方領土を取り返す」という気持ちより数倍強い、中国全体を覆う意思のように思います。
 毛沢東以来の中国における最強の権力者となった習近平にとって、台湾奪還は何としてもやり遂げなくてはならないハードルです。平和ボケしている日本人からみれば、「まさか中国が台湾に軍事侵攻することなどあり得ないだろう」と思えますが、情勢は甘く見ないほうがいいでしょう。
 現在、台湾海峡は中国の度重なる挑発で一触即発の状態となっています。折から米大統領選挙が迫っています。仮にこの選挙で混乱が生じて、米国の大統領が決まらないようなカオス状態が生じた場合、習近平政権は台湾に軍事侵攻するとの見方も出てきているのです。緊迫化する台湾をめぐる情勢と習近平政権の思惑と動向、並びに米国の出方などを考えてみます。

 米国が中国と国交回復したのは1971年です。米国は1950年から始まった朝鮮戦争では北朝鮮側に立った中国と戦火を交えたわけです。朝鮮戦争は休戦となったものの、いまだに終戦には至っていません。いわば朝鮮戦争は休戦状態がこれほど長く続いているわけです。そしてその当事者は韓国と北朝鮮、および米国と中国です。そのような激しい戦火を交えた米国と中国の両者は、1971年当時の米国の大統領補佐官だったキッシンジャー氏の、中国への秘密の訪問から国交回復の交渉が始まったのです。

 当時米国は、今のロシア(当時はソビエト連邦ですが)と激しい争いを全世界を舞台に行っていました。それは直接的な軍事行動を伴っていませんでしたが、世界は米国の民主主義陣営とソビエト連邦の社会主義陣営に真っ二つに分かれていたわけです。まさに両陣営はイデオロギーも違うし、貿易もしないという完全なる分裂状態となっていました。そして世界のどの国も、どちらかの勢力範囲に入っていました。
 ところによっては、国が分裂して米国側に付くか、ソビエト側に付くかで激しい争いが起こって局地的な内戦状態になったケースも多々ありました。ベトナム戦争などはその典型です。かような最中にあって、ソビエト連邦と中国は同じ社会主義陣営に属していたわけですから、中国は当然、ソビエト連邦側とみられていました。
 ところが1969年、中国とソビエト連邦は領土を巡って激しい争いとなり、軍事衝突するまでに至ってしまったのです。この中国とソビエト連邦の仲違いという好機を逃さなかったのが当時の米国ニクソン政権でした。
 ニクソン政権はキッシンジャー氏の巧みな外交手腕も手伝って、中国との関係正常化を目指し、それを成し遂げたのです。ソビエト連邦という共通の敵を持つ米国と中国との結びつきでした。これは米国として共産主義体制である中国の体制については目をつぶって、強力な敵であるソビエト連邦に対抗するための手段としてお互いが関係正常化に動いたわけです。
 この時米国ニクソン政権は「一つの中国」という中国共産党の主張を受け入れ、米国も表面上、台湾と断交して台湾を国家として認めず、中国共産党率いる中華人民共和国を唯一の中国として認めることとしたわけです。日本もその後、田中内閣において日中国交正常化を成し遂げました。そして米国と同じく「一つの中国」という主張を受け入れて、表面上、台湾と断交する形を取ったわけです。
 しかしながら当時は、中国本土より台湾の方が経済的にも上で、実質的に米国も日本も、台湾との交流は続けていたわけです。ただその時から、政府の高官の行き来など、台湾を国として扱う公式な行事はなくなったわけです。
 その流れの中で現在に至るわけですが、中国共産党としても台湾を軍事的に攻めるわけにもいかず、様々な手法を通じて時間をかけて台湾を中国の治世下に置くように手段を講じてきました。
 その間、1997年に香港返還がなされましたが、その時に「一国二制度」という手法を使って、まずは違う体制を乗り越えて統一するという手法を用いたわけです。この「一国二制度」は、そもそも中国が台湾を自らの治世下に置く手法として考え出したもので、実験的に香港の返還時に採用された経緯があるわけです。

 ところがご存じのようにここにきて中国は香港の自由を奪い、強権を持って香港の民主主義を潰し、香港は実質的に中国化に向かっています。中国は香港返還時に50年は「一国二制度」を続けると国際社会に約束したにもかかわらず、その約束を反故にして強引に力づくで香港を我が物にしたわけです。ですから国際社会は中国に対して非難の声を上げています。
 しかし国際社会の現実をみると、日米欧など民主主義国は、香港問題で中国に対して警告を発し続けていますが、世界の半数以上の国は中国の主張通り、香港問題は中国の内政問題であるから、「内政不干渉の原則で中国の方針は正当化できる」という中国の主張を受け入れているのが実情です。
 香港問題で声を上げなければならない一番の理由は、中国が香港の次に台湾を狙ってくるのが明らかだからです。台湾も手に入れれば、次は沖縄を狙ってくるでしょう。かような流れを許し続ければ、最後は日本全体も中国に飲み込まれてしまいます。ですから香港問題に対しても本来、日本は大きな声を上げなければならないわけです。

●コロナで台湾に急接近する米国、暴挙に出る中国
 そして現状、米国と中国の対決は激しさを増すばかりです。中国にとって台湾問題は一番の「核心的な利益」に当たる問題であり、この台湾問題で妥協することはあり得ないわけです。ですから中国は台湾問題で理不尽なことをされれば、激しく反発するわけです。ところが米国と中国の対立は抜き差しならないところまできましたので、米国はついに中国が最も嫌う、激しく反発するのが必至である台湾問題に自ら火をつけてきたわけです。中国を怒らせるためでもあり、中国を挑発するためでもあります。そして米国は中国に気兼ねすることなく台湾に対して急接近し始めているわけです。
 事の発端はコロナの事が大きいわけです。コロナの問題について、台湾は昨年末の段階で、その重大性を認識、自ら手を打つと共にWHOを通じて、中国の非をいち早く世界に発信しようとしたわけです。ところが中国寄りなWHOは台湾の主張を無視し続けました。これも問題視されているところです。台湾はコロナウイルスが中国のウイルス研究所から漏れ出したものとの情報もいち早く掴んでいたようです。
 その後の展開はご存知の通りで、中国は武漢を閉鎖してハイテク技術を駆使して全国民を監視することで、コロナの拡大を食い止めることに成功しました。
 今やその自信をもとに、そして国内に広がる不調和音を抑えるために、外国に対して以前にも増して強硬に出るようになってきたわけです。
 中国国内に目を向ければ、ウイグルでの強制収容所を使った人権弾圧、宗教の弾圧、そしてモンゴル地区では小中学校においてモンゴル語による教育を強制的にやめさせ、中国語での学校教育を強制するという暴挙に出ています。
 さらに海外に目を向けると、インドとは国境紛争で軍事的な衝突、オーストラリア政府とはコロナをめぐるオーストラリア政府の発言に激怒して、貿易において禁輸措置を講ずるなどして、最大限の圧力をかけ続けています。世界中、どの地域においても中国の外交官の高圧的な態度が問題視されるようになってきて、現在では中国の「戦狼外交」として嫌われているのが実情です。
 それでも中国はその圧倒的な貿易量と、自国の経済のパイの大きさ、並びに昨今、急発展して世界の頂点に立とうとしている通信を筆頭とするハイテク技術や監視技術を駆使して全世界で影響力を行使しようとしているわけです。

 ケ小平時代の中国は「韜光養晦(とうこうようかい)」といって、自らは目立たないようにして爪を隠すという姿勢で、自らの主張や力を前面に押し出して強硬に出ることはあまりありませんでした。
 ところが習近平政権ができて、さらに驚異的な経済発展を遂げて中国の姿勢は様変わりとなってきたわけです。ですから今回の米中対立においても、中国は米国に対して一歩も引こうとしていません。習近平主席を中心として一丸となって米国と対峙していく様相です。
 かような中習近平政権は、台湾に肩入れして台湾に最先端の武器を売却する米国の姿勢は看過することはできないのです。中国はいわゆる台湾と中国の中間線、この線はこれ以上お互いが接近した場合は軍事的な措置も辞さないという台湾と米国と中国が暗黙のうちに決めたラインですが、そのラインを何度も突破して軍事的挑発を繰り返すようになってきたわけです。仮に台湾が中国機を撃墜しようものなら、それを口実にして台湾に攻め込むつもりかもしれません。この中国側の挑発が今後どれだけエスカレートするかわかりません。

●危うい米大統領選?
 そして危ういのが米国の大統領選挙で次の大統領が決まらないようなカオス状態が生じた場合です。かような不安定な状況となれば、仮に台湾海峡で軍事的な衝突が起きたとしても、米国政府は機敏に動けない可能性が高いわけです。
 中国側からすれば狙い目はそのような時です。そもそも台湾の軍事力では中国に太刀打ちできるはずもありません。米国が守る可能性が高いので、中国は台湾に近づけないわけです。その米国が動けなければ中国としては台湾に侵攻するには絶好の機会となるわけです。
 米国は、現在世界一の通信会社であるファーウェイに対して徹底的に制裁を加えてファーウェイへの半導体の供給を止めるべく各国に対して禁輸措置を強制しています。そのような中でもファーウェイが一番困ったのは、半導体受託生産では世界一である台湾のTSMCからの供給が止められたことでした。これでファーウェイは窮地に陥っています。中国としては何としても悲願の台湾との統一を成し遂げたいという願望があるわけですが、それが実現できれば台湾と一緒に台湾を背負う世界の半導体のナンバー1企業であるTSMCも手に入れる事ができるのです。中国習近平政権は世界の覇権を握ることが自らの使命と信じています。そしてそれを中国共産党革命から100年目の2049年までに成し遂げなくてはなりません。中国は虎視眈々と台湾侵攻のチャンスをうかがっているのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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