“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2008.12
ドバイの落日
 

 <天まで届け!>子供たちの夢ではありません。<アル・ブルジュ>。このドバイで計画されている超々高層ビルの高さは、何と1400メートル。富士山の半分近くの高さになろうというのですから尋常ではありません。まさに<バベルの塔>であり、この行きすぎた人間の行為は、神の怒りを買いそうです。
 来年には、<ブルジェ・ドバイ>がいよいよ世界一の高層ビルとして完成します。その高さは818メートル。現在、もっとも高いと言われている台湾の台北101の約509メートルを、なんと310メートルも凌駕(りょうが)して、砂漠の真ん中にその雄姿を現すのです。
 ここ2〜3年、中東のドバイは、すさまじい建設ラッシュに沸いていました。ドバイの面積は埼玉県と変わらない程度ですが、今や、世界中の建設用クレーンの3割が集結していると言われ、24時間休むことなく工事が続けられていたのです。100年前は、小さな港町だったドバイですが、現在は、不夜城となり、まさに真夜中でも、黄金のように輝く、<スター・ウォーズ>の世界となったのです。

 <パーム・ディエラ>。世界最大の人工島として、現在も建設中です。椰子の木の形に埋め立てられて、その幹の中心をモノレールが走ります。両側にはショッピングセンターやマンション群、そして椰子の葉の部分はリゾート風の別荘住宅が並ぶのです。一つではありません。<パーム・ジュメイラ>、<パーム・ジュベリアリ>、それぞれ、ホテルやオフィスビル、一戸建てのヴィラなど贅沢を尽くした、海の中に現れる椰子の木をかたどった、最高級リゾート、<地上の天国>です。
 <スキー・ドバイ>。砂漠のど真ん中、夏は摂氏50度になろうとする、この地に屋内スキー場ができました。雪を見たことのないドバイ住民は喜び、1年間に100万人が訪れたそうです。緑に囲まれた、水の尽きることのない、素晴らしいゴルフ場もあります。 
 そしてホテルも最高級、ついに7つ星ホテルの誕生です。<ブルジュ・アル・アラブ>は、海上の人工島に建てられた全室スイートという超高級ホテルなのです。
 <斬新なアイデア>。とにかく、世界一、人が想像もつかないこと、驚きを持って受け入れられること、石油バブルの受け皿として限りない贅沢を尽くしきることがドバイ発展のエネルギーでした。「お金があれば何でもできる」、それをとことん証明することが、人々の憧れを呼ぶのです。

行き場を失った膨大な資金
 2001年、9.11のテロのよって、中東から膨大な資金は、行き場を失いました。米国一辺倒だった投資は、激しく引き揚げられます。そして新しい行き場を探していたのです。そしてドバイは、しっかりと、その受け皿となったのです。イスラムの地に、ディズニーランドばりの観光地、大金持ちのための、飽きることなない一大観光地を作りあげたのです。
 お金を呼び込むには、アイデアだけでは足りません。税制面でのバックアップも重要でした。ドバイは企業から税金を取りません。<タックス・フリー>です。そのうえ関税もないのです。一連の政策はドバイの都市としての魅力を最大限に高めました。世界に誇る観光都市に変身したのです。ドバイの人口は約120万人と言われているのに、ホテルの宿泊客数は430万人、まさに超一流の観光地となりました。
 <ジュベル・アリ港>。自由貿易区となった港も活気に溢れています。大型コンテナが、所狭しと積まれ、大型トラックが走り回っているのです。このジュベル・アリ港と近くのラシィド港を合わせると、そのコンテナ取扱量は、何と世界7位、まさに中東の物流のハブなのです。

一日にして「砂上の楼閣」となった?
 日の出の勢いだったドバイですが、今年夏から変調になってきます。7月147ドルの高値をつけて、暴落状態に陥ったWTIの石油価格に合わせるかのように、まさに、つるべ落としの変化が訪れたのでした。まずは株価です。
 ご多分にもれず、世界の流れには抗(あらが)いがたく、年初から半分になりました。
 しかし、変調の最たるものは、その原動力となってきた高層ビルやリゾート、まさに<ドバイモデル>と言われた開発事業でした。ドバイでは不動産価格は過去5年で4倍にも膨れ上がり、新規売り出し物件は瞬時に完売、未完成でも転売を繰り返し、バブル期の日本のような状態だったのでした。まさに熱狂状態だったのです。
 それが10月に入ってからいきなりの異変が起きてきたということです。ある日、突然、値がつかなくなってしまった、という状態でしょうか。「砂上の楼閣」そのもののようにバブルが瞬時にはじけたとのことです。昨日まで、競うように買いついていたのに、朝起きてみたら、誰も買わなくなって、売り手で溢れてしまっている状況です。椰子の木の人工島を手掛けていたナキール、世界最高層のビルを建設するエマール、あっと言う間に金融不安が出てきたのですからたまりません。11月下旬のホテル開業のパーティーでは、2000万ドル、約20億円も使って、派手に催したものの、もはや周りの関心は、その開発続行と、資金に対しての懸念に変わっていました。
 周りの疑惑の目、急激な見方の変化に対して、ドバイ政府は慌てます。ナキールやエマールは、とどのつまりは、ドバイ政府と表裏一体です。2008年11月24日、ドバイ政府は政府と政府系企業が抱える債務が800億ドルであることを公表しました。同時に開発計画の見直しと、不動産金融大手2社への救済も発表したのです。この800億ドルはドバイのGDPの1.7倍、こんな無謀な投資が回収できるのか? 一気にデフォルトの懸念に晒(さら)されました。
 元々、ドバイからは、石油はほとんど出ません。手元資金の何倍ものお金を借りてプロジェクトを推進する、まさにレバレッジに立脚してきたのです。
 身の丈以上の破格のプロジェクトをぶち上げ、話題性と派手さで、石油バブルで溜まった資金を吸い上げてきたのでした。永遠に続く高い石油価格と、右上がりの経済成長を前提に成り立ってきた、借金にまみれた<ドバイ・モデル>だったのです。そして、石油価格の暴落と、世界経済の変調で、一夜にして状況は一変しました。あらゆるバブル崩壊の歴史にもれず、一気に夢から覚めたのでした。

  銀行は一斉に引き締めに入りました。UAE最大の住宅ローン会社、アムラック・ファイナンスは、新規住宅ローンの貸出を停止したのです。英ロイズTSBグループも、同じくドバイマンションのローン販売中止、高級別荘のローンも販売価格の50%までに切り下げたのでした。こんな高級なヴィラやマンションを現金で買え!というわけです。バブルはそのスケールが大きければ大きいほど、反動が膨大なものになります。たった今、この狂ったようなドバイのバブルは崩れ始めたのです。エジプト最大の投資銀行、EFGヘルメス・ホールディングスのレポートによれば、来年には7000もの新たな物件が完成します。それだけではありません、これはまだ計画の半分で、さらなる新しい物件が山のように出来上がってくるのです。そして今、それらの購入者は、ほとんどいないのです。

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新刊『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(舩井勝仁との共著)まえがきより(※目次、舩井勝仁のあとがきも含む)

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金融問題公聴会

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グーグルVS中国

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09/09

悲惨なアイスランド

09/08

不発弾(米住宅問題)が爆発するとき

09/07

秋に向け、鳴りをひそめている危機

09/06

今後の行く末は?

09/05

ゆっくり進むドル危機

09/04

上昇、やがて、壊死する株式市場

09/03

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09/02

リーマンと山一證券

09/01

ゲート条項

08/12

ドバイの落日

08/11

ターミネーター


朝倉 慶氏の新刊『日本人を直撃する大恐慌幕』『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、朝倉慶氏の新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売!さらに最新刊 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が5月30日に発売!

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 船井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を船井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。

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