“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2009.08
不発弾(米住宅問題)が爆発するとき

 「現実的な見通しは立たない」。
 7月24日、ガイトナー米財務長官は下院金融委員会で、なかばさじを投げたような発言をしたのです。
 フレディーマック、ファニーメイ、米国の住宅金融を司るこの2社は、実質倒産状態となって早1年。米政府管理下、米連邦準備委員会(FRB)の庇護のもとでやっと息をついている状態なのですが、米政府としてもどうしていいのかわからず、問題の先送りを繰り返している状態なのです。本当は深刻な問題なのですが、上手いことに、マスコミ報道は昨年の危機発生のときのようにはヒートしていません。これはよしと、大問題があたかも何でもないかのように、新聞の片隅に追いやられていて、すべてが順調に進んでいるかのごとくです。
 8月12日の米連邦公開市場委員会(FOMC)、FRBは、フレディーマック、ファニーメイの住宅ローン担保証券をかねての予定通り、年末までに最大1兆2,500億ドル(約118兆7,500億円)、この2社の社債、いわゆるGSE債を2,000億ドル(約19兆円)購入することを決定したのです。同時に、10月末には米国債の買い取りプログラムを中止することを発表しました。
 マスコミ報道では、このFRBの米国債買い取り中止を歓迎して、「ついに今までの非伝統的な金融政策を止めて、いよいよ正常化への一歩か!」と今までの政策がうまく機能していることを印象づけたような報道が目立ちました。「FRBは非常に上手く事を運んでいる。100年に一度の危機を金融崩壊をもたらすことなく、収めたベン・バーナンキFRB議長は称賛されるべき」との意見が大勢でした。
 そして、8月25日の報道によれば、この手腕を買われ、バーナンキ議長は、来年1月の任期を待たずに、再選が決まりました。オバマ大統領の信任も厚く、市場での評価も高かったということです。

まさに“火の車”のアメリカの内情
 しかし昨年から、何が解決されたのか? 本質的な問題の一つでも解決されたといえるのか? AIGは? ベア・スターンズは? リーマンの処理は? 未解決のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ、いわゆる倒産保険)は? そしてフレディーマック、ファニーメイの巨大な債務は? FRBはその貨幣印刷権を使って一時的に問題の先送りに成功しただけではないのか! 
 8月12日の報道では、3月から導入した3,000億ドル(約28兆5,000億円)米国債の買い取りプログラムの中止をはやし、ついに「出口戦略」(=いかにして経済危機を脱して正常化するか、という意味)が始まった、とのこと。しかし、本当にこの常軌を逸したFRBのドルばら撒き政策に本当の意味での出口は存在するのでしょうか?
 
 そもそも、今回のサブプライム・ローンの問題から始まった、デリバティブ市場の崩壊の発端は、すべて、米国における住宅価格の下落から始まったのです。その住宅価格は今、一時的に下げ止まったものの、73年間上げたものが、2年で約3割下がったので、小休止しているに過ぎません。73年間という長い間に蓄積されたバブルの崩壊は数年で収まるものではないのです。
1945年の終戦から始まった日本の土地バブルは、1990年まで45年間続きましたが、その後の展開は日本人なら誰でも知っている通りです。日経平均株価もこのときの39,000円の高値は、今の1万円と比べてみればわかりますが、遥か彼方なのです。実際、全米の住宅事情をみると尚、深刻さを増してきているのです。

 “アンダーウォーター(水面下)”――米国では、負債価格よりローンのほうが大きくなった人は、このように言われるのですが、現在この“アンダーウォーター”状態の人が26%、あと1、2年のうちにはおよそ50%の人達がアンダーウォーター状態に陥る、と予想されているのです。
 止まらない失業率、増え続ける自己破産、そして犯罪、ゆっくりと不況の波は押し寄せつつあり、とても株の世界の上昇とは無縁の底辺の労働者たちがますます悲鳴を上げようとしているのが実情なのです。
 今年5月の自己破産件数は前年比37%増、同じくクレジットカードのデフォルト率は昨年の4.83%から7.79%と急拡大、このような状況の下、住宅ローンの延滞率は増加する一方で、4−6月期の延滞率は9.24%、今や安泰と思われていたプライム層に、この延滞の波は急激に広がってきているのです。また、これより酷い状態の、すでに住宅を取り上げられた人、住宅の差し押さえ率は4.3%、これらを合わせると、なんと全米で、7人から8人に一人は家を失いつつあるのです。実際アメリカでは、この状況を映し出すかのように、郊外の人口が急激に減り始めました。カリフォルニアやマイアミといった郊外に家を買った人達は泣く泣く家を手放し、仕事を求めて都市へ移動しているのです。結果、ニューヨークやロサンゼルス、シカゴの人口は急増中です。
 この状態は銀行の決算にもはっきり出ています。アメリカを代表する商業銀行、シティやJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカの4−6月期の決算では、この住宅ローン関係の貸し倒れ引当金が昨年の倍に急増、止まらない勢いなのです。

 このような状態で、これら住宅を担保にしたローン、サブプライム・ローンは元より、安全と言われた、プライム・ローンや、その中間と言われるオルトAなど、もはや、どのローンも焦げ付きが拡大するばかりなのは当然です。
 では、これらのローンをベースにして作られた、住宅ローン担保証券はどうか、と言えば、その惨状は言うまでもないでしょう。上昇する株価など無関係に、その価値は劣化する一方なのです。

 「アメリカには、借金の財布が二つある」。一つは米国債、そしてもう一つは、この「住宅ローン担保証券」だったのです。なんと世界中の中央銀行はじめ、名だたる投資家がこの、アメリカの「住宅ローン担保証券」をこぞって買ってきていたわけです。まさに世界中からお金を集めて、何でもかんでもやってきたのが、アメリカという国なのです。

 そして今、アメリカ政府の、ごまかしの言葉、すなわち「アメリカ政府は、フレディーマック、ファニーメイの住宅ローン担保証券、並びに社債を保護(protect)します」との言動に、これは危ない、と世界中の投資家はこのフレディーマック、ファニーメイの住宅ローン担保証券、社債を投げ売りし始めたのでした。アメリカ政府のprotectというごまかし、本当はguarantee(保証)を使わなければ、保証するということにはなりません。法律上の嘘を見破って、世界の投資家は、この住宅ローン担保証券、社債を見限ったのです(日本の投資家は別)。
 このため、この住宅ローン担保証券と社債は、放っておけば、暴落の憂き目をみるのは必至の情勢となりました。これらが暴落すれば、住宅ローンの金利に跳ね返るばかりでなく、世界中の投資家がまだ、大量に保有している関係上、世界が金融破綻に至るのは確実なのです。ですから、アメリカ政府、並びにFRBは、誰の買い手もいなくなったこの、フレディーマック、ファニーメイの住宅ローン担保証券、社債を買い続けるしかないのです。

「出口戦略」の実現は幻想に過ぎない
   非伝統的な政策を止め、「出口戦略」に入るなどと言っているのは幻想で、これからさらに泥沼のように、この住宅ローン担保証券を社債と買い続けるしか道はないのです。
 FRBは、フレディーマック、ファニーメイのすべての債券を肩代わりして、住宅ローン会社となる運命なのです。結果、腐った住宅ローンと一緒になったドルの価値は急落し、ついには、FRBの命運も尽きて、ドルと共に沈むのです。今やFRBのドルの担保となるこの腐った住宅ローン担保証券社債は、ドル暴落を導く、時限爆弾となったのです。

 公的資金をもらった金融機関の100億円単位のボーナス支給が大問題となり、アメリカの世論を怒らせています。しかし、この10,000倍の資金が、クズのような住宅ローン担保証券と社債に使われることがすんなり決定されているのは、ニュースにもなりません。巧みなマスコミ操作で、問題の先送りに成功しました。そして、先送り名人、というより、世界をマネーインフレで、破滅に導く役割を背負っている、バーナンキFRB議長の再選は難なく決まったのです。もはや、誰にもこのレールを止めることはできません。すべてはシナリオ通りに進んでいくのです。
 在任中、マエストロ(名指揮者)と呼ばれた、前FRB議長グリーンスパンは、今や今回の金融危機の元凶を作ったと非難の的となっています。再任されたバーナンキ議長の任期は2014年まで。この時には完全に今の資本主義のシステムは、破壊されているでしょう。溢れかえったお金が、止めどもないインフレとなって世界を襲うのです。グリーンスパンと違って、バーナンキは、その在任中に、世界を破滅に導く「ヘリコプター・ベン」として、その真の正体を現すことになるのです。 
 役者の続投は決まりました。世界中の株の暴落から始まった100年に一度の混乱は第1幕を終え、第2幕、いよいよ中央銀行も制御不能のインフレにバトンタッチするのです。用意万端(ばんたん)、計画通り、資本主義崩壊に向けて、本番のスタートです。

(※朝倉慶氏は、(株)船井メディア企画の『朝倉慶の21世紀塾』でも詳しい経済レポートやCD情報、セミナーを開催、お届けしています。よろしければご活用ください。)


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朝倉 慶氏の新刊『日本人を直撃する大恐慌幕』『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、朝倉慶氏の新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売!さらに最新刊 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が5月30日に発売!

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 船井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を船井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。

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