“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2011.07
逆ニクソンショック(金本位制への回帰)

これから金本位制導入が始まる!?
  米国内、ないしはメキシコからきな臭い動きが出てきました。どうも金本位制の導入に備えた準備が始まってきた模様です。現在、世界は経済的な行き詰りを見せ始めていますが、近年中に世界をあっとさせるようなドラスティックな発表が米国からあるかもしれません。現在、そのような大変化を起こすための下準備が水面下で誰にも気づかれないように行われてきている模様です。

 金本位制とはどんなものか? なぜ今、金本位制なのか? そしてどのような変化が起こってきているのか? 見てみましょう。

 金本位制とは通貨を金とリンクさせるということです。1971年のニクソンショックが起こるまでは、ドルは金本位制で1トロイオンスは35ドルで取引されることが決まっていました。1ドルは360円、世界各国の為替レートはドルとの固定相場で決まっていましたから実質、世界はドルを中心とした金本位制の下にあったわけです。そして金本位制の下では、常にドルは金と交換することができるわけです。金はその量に限度がありますから、当然ドルの発行量に制限がかかるわけです。今のような止めどのないドルを発行すれば、それに応じた金が存在していませんから、必然的にドルは暴落を起こしてしまいます。米国が放漫財政をすればするほど、世界各国の投資家や国家は手に入れたドルを金に変えようとしますので、米国からは金が流出して結果としてドルを担保するはずの金がなくなり、通貨暴落を引き起こすわけです。このように、金本位制の下では放漫財政や通貨の垂れ流しはご法度です。金の準備がないのに通貨であるドルを発行するというのは不可能なわけです。となると金本位制は常に金の量に通貨発行が縛られるわけですから成長を目指す経済には大きな制約となります。反面、現在のような通貨の無限な発行はできませんので、健全な経済といいますか、マネー刷り過ぎによる問題は起きません。

かつて金本位制を放棄した理由は?
 では1971年、時の米国大統領、ニクソンはなぜ、いきなり金本位制を放棄して、ドルと金の交換停止という乱暴な政策を一方的に発表したのでしょうか?
 世界中の人達からみると余りに身勝手で横暴だと思いませんか? 今までは金とリンクしていたドルを一方的に制度を変えて、金との交換を停止して、ドルを勝手に印刷するというのですよ? どの国とも相談することなく、1971年8月15日に突如、発表されて、翌日からその体制になったのですから驚きでしょう! 世が世なら戦争か国交断絶ものでしょう。だって当時だって世界中の人達がドルを大量に保有していたわけですよ。
 「そんなこと知らない、自国の通貨ドルだから自分達で方針は決める、素直に従え!」ですよ! こんな不条理が許されますか! しかしそのようになったのです。以後、ドルは金とリンクすることなく、自由に発行できるようになり、世界はその米国の決定に従って、金本位制から変動相場制に移行しました。今でこそ、円ドルやユーロなど毎日のように為替取引がなされていますが、1971年までは固定相場制でその大きな変化点はこのニクソンショックにあったわけです。
 ではなぜ、ニクソンはこのような乱暴な政策を行ったのでしょうか? 
 言わずと知れた米国の国益のためです。
世界の事なんか知ったことか! 米国のために行ったのです。当時の米国は今のギリシアではないですが、酷い状態に陥っていたのです。
 第二次世界大戦後は世界の中心となって政治的にも軍事的にも経済的にも覇権を握ってきた米国でしたが、終戦後、25年以上も経つと、敗戦国であった日本もドイツも驚くような発展をしてきました。それとは対照的に米国はベトナム戦争の泥沼状態から抜け出すことができず、膨大な戦争の出費と国内のインフレに悩まされてきていたのです。これが今のような経済ですと、解決方法は単純で国債発行、ないしは中央銀行によるマネー増刷でこれによって危機を切る抜けるわけです。まさに今の日本や米国、世界そのもののようですね。しかし当時は金本位制の下にあったので、マネーを刷ることができないわけです。
 下手にマネーを刷れば、危ないと思った世界中の国々が手に入れたドルを即座に安全な金に換えようと米国に殺到してあっという間に米国内の金は枯渇してしまいます。このような金本位制の下では放漫財政は許されませんから、勢い、今のギリシアのように泣くなく健全財政を目指そうとするわけです。
 当時、あの米国がですよ、公務員給料を凍結したり、それでも収まらないインフレに対しては物価統制令などを行ったのですから驚きです。まさに今のギリシアをみていると当時の米国と重なるのですが、借金が膨らみすぎて、どうにもならないわけです。今のギリシアも膨大な借金がユーロという通貨の呪縛にあって、異様な緊縮財政を取るしかない状況に追い込まれています。自国の通貨であったドラグマを放棄しましたので通貨を自由に印刷できないのです。当時の米国も同じで金本位制の下で異様な緊縮財政を強いられたのです。悲劇的なことにあの米国が幾ら緊縮財政をしても経済は良くなるはずもありません。一向に上向かない経済に世界各国は懸念を抱き、次々と米国にドルを持ち込んでは金との交換を始めたというわけです。

 この袋小路に陥った米国経済の状況に風穴を開けるためには、革命的な変化が必要でした。世界の誰も考え付かないような、しかもどこの国にも気付かれずに、突如、システムを変える必要があったのです。そしてウルトラCの登場、金本位制の放棄です。ニクソンの突如の発表によって、米国は一気に世界のシステムを変え、ドルを幾らでも印刷できる状況を作り出し、有無を言わせず、世界を従わせたのでした。世に言うニクソンショック、為替相場の変動制はこうして生まれたのです。40年も経って皆忘れてしまいましたが、これほどの大変動が米国国家の国益で、どこの国に相談することもなく決定されたのは驚きではありませんか? ひとえにドルという通貨は米国の通貨であって、米国の政策、ひいては米国大統領の鶴の一声で変えることができるからです。ということは状況が変われば、ニクソンショックの逆、今度はドルを金本位制に戻す、逆ニクソンショックもオバマ大統領の決断によっては可能なわけです。

日本の国家破綻を見越したアメリカの目論見(もくろみ)とは?
 そんな馬鹿な? と思うかもしれませんが、40年前、8月15日には起こったのですよ、それが歴史です。仮にこのように突如、米国が金本位制への回帰を決めるとどうなるでしょう?
 金本位制ですと金を保有している額しか、その国の通貨を発行することができません。通貨が金にリンクしているからです。となると現在8133トン保有で世界一金を保有している米国は金本位制になったとたんに世界一の金持ちになります。一方日本は765トンしか金を保有していませんので、米国の10分の1以下の資金しか持っていないということになります。中国はと言えば1054トン程度ですから国力の割には資産は急減です。日中とも膨大な外貨準備を持っていてもいざ金本位制になれば担保となる金がありません。まさに外貨は絵に描いた餅、紙になりかねないのです。その一方で現在問題となっているユーロ圏各国はドイツ3401トン、フランス2435トン、イタリア2451トンともに大量の金を保有していますので、金融的には米国との釣り合いが取れている感じです。
 このようにいきなり逆ニクソンショックが起これば、発展著しいアジア諸国は貧乏に、欧米諸国は平穏というわけです。
 そんなことが起こるわけがない! 起こせるわけがない! と思うでしょう。その通り今の時代、如何に米国といえどもそんな乱暴なことはできません。そこで、です。どのようにしたら金本位制に持っていくという口実を作れるか? ということがポイントになるわけです。
 金本位制やむなし、という状況を作りだすのです。そこに日本の存在価値があるのです。
 世界は今、金利上昇の波が始まってきています。日本も遅らばせながらこの波に巻き込まれるしかありません。借金1000兆円の日本がブラジルの金利12.5%の4分の1の3%の金利にでもなったら、金利だけで30兆円、税収35兆円の日本国が誰も借金が返せるとは思わなくなるでしょう。そうなると今のギリシアやアイルランドのように信用不安となって金利は加速度的に急騰(国債暴落)となります。国家破綻です。
 米国はそれを待っているのです。仮に日本が国家破綻となればどうなりますか? 円相場は果てしない暴落となっていくでしょう。その場合、世界各国の通貨体制はどうなると思いますか? ユーロだってあのザマ、ドルだって問題だらけ、中国の元など自由に流通すらできないのですから世界通貨になれるはずもありません。おそらく世界中の為替は日本が国家破綻すれば大混乱となって収集がつかなくなることでしょう。しかし日本としてみれば如何に大混乱になろうとも、石油は輸入しなければならないし、食料も輸入しなければなりません。
 では質問です。その時の輸入代金は如何に支払いますか? 円ですか? 駄目です。国家破綻に陥って相場が乱高下する円はそんな状態になったらどの国も貿易決済通貨として取ってくれません! ドルですか? これもだめです。このような大混乱が始まれば、その途中で日本は国家防衛のために円買い、ドル売りの通貨介入をやれる限り行いますからドルの保有など底をついてしまいます! ではどうするの? 世界中大混乱になって為替相場が機能しなくなり貿易はどうなるの?
 ですから指摘したでしょう。米国はその時を待っているのですよ。金です。金の出番ですよ! 日本が国家破綻から収集のつかない混乱となって、それが世界に波及して貿易決済が難しくなってきた時、その時です!
 「これまでのシステムは限界だ! 新しいシステムを作ろう! 金にリンクした通貨体制に戻ろう!」という声が出てくるのです。そして米国が音頭をとって新しい金にリンクした通貨体制を構築するという構図です。これでめでたし、めでたし、金を一番持っている米国は世界一の金持ちに返り咲くというわけです。考えてみれば世界の歴史は戦争や天変地異、国家破綻など数えきれないほどあって、その都度、貿易決済には通貨は使えず、金を使用してきたわけです。紙で作った紙幣は混乱時は再び紙に戻りますので、人類は仕方なく絶対的な価値を有する金を交換手段として使ってきたわけです。二度あることは三度あるどころか人類史に数限りなくあった事がまた起こるだけです。通貨なんてまさに紙、日本円だって第二次世界大戦前は1ドル2円、それが敗戦で1ドル360円、そして今78円、こんなもの信用できますか?

 今年、初頭、メキシコはいきなり93トンというとてつもない金を購入しました。GDPでは日本の6分の1にしか過ぎないメキシコがなぜこれほどの金を購入するのか? 日本とのGDP比で換算して日本の購入に当てはめれば600トン近い購入で、そのケースでは日本は一気に金保有が倍近くなるわけで、とてもそんな決断は一中央銀行の独自の決定とは思えません。メキシコの突如の金購入には大きな意志が働いているに違いないのです。米州機構、米国、カナダ、メキシコの将来的な金本位制へと向けた布石を打ったと思えばよく、これは裏で米国の意志が働いて行われたことでしょう。折しも米国各州では金や銀を鋳造することや通貨として流通させること、税金を金や銀で支払うことなど、ドルから金へとの流れが州単位で、法制化される動きが活発です。5月からユタ州では金貨を同州の法廷通貨として認めました。バージニア州やモンタナ州でも金を使った独自の通貨を使うことの法案化が検討されています。ジョージア州では金や銀で州税を収めるべし、という法案が提出されています。アイダホ州でも納税にドルを使わずに金貨、あるいは州の通貨を使うべきということで法案化の準備です。ドルから金への流れは止まりません。
 ドルを信用していないのは当の米国民であって、今の通貨体制が崩壊することは彼らが一番身近に感じているのです。用意万端にして日本の国家破綻を待っていると言っていいでしょう。ユーロ危機、米国の財政破綻、それを懸念した円高の到来、一見すると危機は欧米にあるようですが、実は大爆発は日本からなのです。裏での危機管理が完ぺきな欧米は予定通り日本の破綻、それに続く為替相場の大混乱を待って、力強く金本位制への復帰を宣言するのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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