“超プロ”K氏の金融講座
このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
5月17日、欧州連合(EU)の会議で財務相らは全会一致でECB(欧州中央銀行)の新総裁にイタリア中央銀行総裁のマリオ・ドラギを選出することを決定しました。いったいこのドラギという人物はどんな人なのでしょうか?
ドラギは10代で両親を亡くし、現在は2人の子供がいるということです。高校時代はバスケットの選手で、プロのバスケットボールチームに所属していたということです。このスーパーマリオというあだ名は、ドラギがイタリアの財務次官だった時に、民営化を次々と進めたので、ウォール街からこう呼ばれるようになったのです。
このような表向きの話とは別にやはり、ECBの総裁ともなると大きな利権や思惑が絡んできますので、その選出過程は様々な裏があると思わなければなりません。いったいなぜ、イタリア人のドラギが総裁に選出されることとなったのでしょうか?
世界の顛末を決めるFRBとECBの人事
ECBの総裁は初代がオランダのドイセンベルグ(1998−2003)、二代目がフランスのトリシェ(2003−2011)でした。このECBの総裁というポストは極めて重要なポストで、ある意味世界経済を左右させる人事と言っていいでしょう。世界はリーマン・ショック後の不況から立ち直るために膨大な国債を発行して、借金財政を膨らませました。もうどの国も借金はできません。勢い、金融政策、いわゆる中央銀行の行うマネー印刷に頼るしかない状態です。米国ではFRB、日本でも日銀が最も頼りになる機関です。というよりもはや政府サイドで打つ手は限られているので、各国、マネーの印刷に頼って景気回復を図るしかないのです。この権限を有している中央銀行は今や、世界経済を牛耳る王様と言っていいかもしれません。そして世界で一番流通しているドルを印刷できるFRBは世界のナンバー1、次に続くのはユーロを印刷できるECBです。このFRB人事とECB総裁の人事は世界の帰趨(きすう)を決めるのです。ある意味、大統領の人事より重要です。選挙もありませんし、日銀の総裁をみてもわかりますが、一度決まれば任期いっぱい勤め上げるわけで、これはFRBもECBも、世界各国一緒です。世界経済を決める決定的な人事が国民投票にかけられることもなく決まるわけです。
そして今回驚いたことに欧州を代表するECBの総裁にイタリア人が選出です。
普通考えると、欧州の力関係から言えば、一番がドイツ、二番目がフランスで、この辺から総裁が選出されるのが当たり前です。
現在IMF(国際通貨基金)のトップの人事では、フランス人のラガルドが選出予定です。事件でトップを降りたストロスカーンもフランス人です。これら欧州の哲学からすれば、今回のECB総裁の人事は、フランス人トリシェの後ということで、当然ドイツから選出されるべきであって、そのように動いていたのです。
なぜ重要ポストにドイツ人ではなく、イタリア人がついたのか?
特にユーロ圏においては、ECBが全体を統括する中央銀行となりユーロの発行権を有していますので、この利権はユーロ圏の各国にとっても極めて重要なのです。なぜドイツから選出されなかったのでしょうか? なぜドイツ政府は、黙ってイタリアのドラギの選出を容認したのでしょうか?
実はここが、今後の世界の動きを見極める重要なポイントです。
ドイツの連銀総裁だったウェーバーは今年のはじめまではこのECB総裁の本命でした。当然、今まではフランス人のトリシェが総裁だったのですから、次はドイツからというのがユーロ圏の暗黙の了解事項であるはずです。
ところが今年2月、ウェーバーは突如、連銀総裁の辞任を発表、この地点でドイツからのECB総裁の選出の目は消えたのです。私もてっきりウェーバーで決まりと思っていましたが、これには驚きました。
辞任の理由は<個人的な事>ということでしたが、こんな事を信じる関係者はいません。いったい何があったのか? この地点でウェーバーが下りれば、ユーロ圏の力関係から言えばイタリア総裁だったドラギがECB総裁になるのは自然の流れで、現実そのようになりました。なぜウェーバーは辞任したのでしょうか? どこから追い込まれたのでしょうか? ここがポイントです。
当時、漏れ聞こえてくる話では、妥協を許さないウェーバーの姿勢が嫌われたということでした。ウェーバーはいかにも中央銀行の総裁らしい、原則主義者です。昨年ECBがギリシア危機において、ギリシア国債を買い付けることを決めたときも、ECBの財務を毀損(きそん)させ、引いてはユーロの通貨としての信頼を失うことになる、と唯一人反対したのです。実際、今でもギリシア問題がまたぞろ出てきたのも、この昨年の地点でECBが原則を曲げて、ギリシア国債を買い付けることを決定したことが尾を引いていると言えるでしょう。
そういう意味では、ウェーバーの妥協を許さない姿勢はユーロの価値を維持するためにはもってこいの人材だったと言えるでしょう。ウェーバーが尊敬しているのは1970年代から1980年代にかけてFRBの総裁となってインフレ退治をしたボルカーです。
彼は政策金利を二桁まで上げる徹底した引き締め政策を断行して、米国経済を復活させました。衆目のみるところ、予定通りウェーバーがECBの総裁になれば、このボルカーのように徹底的に原則を貫く政策を押し通して、ユーロの通貨価値を維持しようとするとみられていたのです。中央銀行総裁の本来の使命はインフレの防止です。政治家や世論は一般的に景気の拡大や回復を望みますから、どうしても金融緩和を求められるのが中央銀行のさだめみたいなもので、この政治家や世論に打ち勝つ強い使命感と強さが中央銀行総裁の資質と考えられていたのです。
今、世界はどの国も例外なくマネーの印刷に走り、これから来る世界的なインフレが懸念されてきています。あっという間に世界はインフレの渦に巻き込まれるかもしれません。
そのような前段階でしたから、当然、1920年代に歴史に残るハイパーインフレの記録を持っていて、そのようなことは何があっても阻止するという強い姿勢を有していたドイツのウェーバーは、この局面では絶好の人事だったのです。その彼は突如、辞任に追い込まれました。普通に考えれば、どこか、圧倒的な力がインフレ退治はならん! とウェーバーの選出を拒否したと考えられます。そしてその大きな意志をドイツ政府も飲んだのです。
ゴールドマン・サックス出身のドラギに今後、望まれることとは?
そして新たに出てきたイタリア中銀総裁のドラギは何を目指すのか? ウェーバーが本命であったのに、インフレ退治が嫌われて降ろされました。
ということは、インフレ退治の逆ですから、インフレ高進を目指すということになります。世間は素直に、ドラギの選出に関して、バランスのとれた人事とみることでしょうし、欧州や世界のマスコミの論調もおおむね好意的です。しかし今のユーロの置かれた現状を考えてみてください。ECBは中央銀行でありながらギリシア国債をはじめとするPIIGS(ポルトガル・イタリア・アイルランド・ギリシャ・スペイン)のジャンク債を山のように保有しています。ギリシア国債の金利はついに10年物が17%、2年物に至っては26%という金利です。日本でこのような金利がつけばサラ金並みということで犯罪です。このような金利が国家の出す国債の金利で、それを中央銀行がユーロを印刷して買い続けているのです。
現在、市場関係者でギリシアがデフォルトしない、と思っている人は皆無でしょう。明らかにECBは屑を買い続け、将来、ユーロの救うことのできない火種を作っているのです。そしてこのような政策にストップをかける人事であったウェーバーは拒否されたのです。
元々がギリシア危機とは何だったのか? それはギリシアの粉飾決算から始まりました。
2009年に選挙で勝った新しいパパンドレウ政権は、前政権の粉飾を明らかにして、そこから一気にギリシアの財政問題がクローズアップされてきたのです。
なぜ、国家が粉飾決算をしたのか? 粉飾決算は犯罪です。大きな粉飾をすれば社会から抹殺されます。当たり前です。嘘を言ってごまかして、他人の資金を投資という甘い囁きで不法に吸い上げるからです。だからこのような粉飾をした企業は詐欺として社会から抹殺されるのです。ギリシアは粉飾で多くの投資家を欺(あざむ)いてきた、その罪は重く、罰せられるのが当たり前です。
ところがそんな議論よりも、ギリシアの財政破綻によるユーロ危機への拡大が懸念され、いかにこのギリシア危機を収めるかに問題は移ってしまったのです。ユーロ圏の銀行が巻き込まれて大変な危機に発展する可能性が高いからです。
ではこの犯罪、粉飾の話はどこに行ったのか? なぜ、粉飾が断罪されないのか?
ここにこそドラギが絡むのです。ギリシアに粉飾の知恵を与えたのはゴールドマン・サックスです。為替デリバティブを使って、一気に国家債務の見せかけの減少に成功させました。ドル建ての借金をユーロ建てに変換、その時にドル・ユーロの為替レートを巧みに調整するのです。実際のレートより2割も低いレートで設定すれば即座に借金は2割減ります。このような粉飾の知恵を与えられて、名目上、財政赤字をGDPの3%に抑え、ギリシアはユーロに加盟することができたのです。2000年から始まっていたこの粉飾は水面下に封印され2009年パパンドレウ政権が発足するまで明らかになりませんでした。この間、2002年から2006年までゴールドマン・サックスの欧州部門の副会長をやっていたのがドラギです。
誰が粉飾を封印してきたのですか? 誰が真実を知っていたのですか?
表も裏も全てを知る、ゴールドマン・サックス出身のドラギがECBの総裁に、EUの全員一致で選出です。これから何が待っていると思います?
インフレです。止めどもない世界的なインフレですよ! ドルはヘリコプター・ベンよろしくバーナンキが刷り続けます。
ユーロは今後もギリシア、ポルトガル、アイルランド、そして最後はスペイン、イタリアへと危機が拡大していくわけです。イタリアの総裁がECBの総裁になったのですから、自らイタリアなりスペインなりに厳しい政策など取るわけもありません。
「PIIGS、PIIGS」と問題を指摘され、何とかこの欧州の二極化の問題を解決しようという演技はしますが、結局は今まで通り、一時しのぎを続けて、危機が最後に爆発するまで引き伸ばしです。
2012年、ドルもユーロも円も崩壊に向かうでしょう。その役者としてドラギが選ばれたのです。バーナンキ、ドラギと二枚役者は揃いました。2012年、インフレの爆発、世界経済の崩壊に向けて体制は万全に整いつつあるのです。
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★『大恐慌入門』
(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』
(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』
(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』
(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』
(徳間書店刊)を発売。そして2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』
(ダイヤモンド社)を発売。
★『朝倉 慶の21世紀塾』を2009年2月より開始
朝倉氏の最新情報を【A】レポート、【B】CDマガジン、【C】セミナーから
詳しくはコチラ→http://www.funaimedia.com/asakura/index.html
経済アナリスト。
船井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を船井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』
(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』
(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』
(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に船井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』
(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』
(徳間書店刊)を発売。そして2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』
(ダイヤモンド社)を発売。