“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2021.10
アベノミクスは間違いなのか?

「お金持ちをさらにお金持ちに、強い者をさらに強くしただけで終わった。格差や貧困の問題の改善にはつながらなかった」「アベノミクスを抜本的に変えない限り、日本経済は低迷から脱することはできない」「トリクルダウン、『いわゆる大企業や高所得者が富むような経済政策を実施すれば、やがて投資や消費が活発になり、より広い層にも恩恵が及ぶようになる』ということは起こらなかった」
 衆議員選挙でアベノミクスに対しての評価が一つの焦点にもなってきています。

●アベノミクスを振り返ってみる
 アベノミクスは失敗だったのでしょうか? アベノミクスの内容と成果を振り返るとともに、日本経済の問題点と行く末に迫ってみたいと思います。
 結論的に言えば、アベノミクスは日本経済に多大な恩恵を与えたと思いますが、十分ではありませんでした。
 現在、アベノミクスに対しての誤った否定的な評価が広く喧伝されていますが、このような風潮にこそ日本の抱える問題がひそんでいるように感じます。
 振り返ってみると、21世紀に入ってから日本経済がある程度安定していた時期は、小泉政権時の2001年から2006年まで、そして安倍第二次政権時の2013年から2020年までと思います。この時代は新自由主義と言われ、政府の介入を嫌い、市場の自由競争によって経済の効率化を目指した時代でもありました。その政策が完全に行き届いたわけではないですが、一定の成果は得られたと思います。株価は一般的に経済政策の結果として現れる部分もあります。小泉政権時代と安倍政権時代は株価が綺麗に上がり続けました。この時代、日本経済は概ね上り基調にあったと思います。
 経済が安定していたので、小泉政権も安倍政権も安定政権として長期に政権を維持できたものと思います。特に安倍政権時には「二度に渡って消費税を引き上げる」という、時の政権として最も難しい仕事である増税を実現させ、さらに株価を上げることに成功したわけです。この間、日本の企業業績も爆発的に拡大したのですから、安倍政権の評価、その政策であるアベノミクスの評価が極めて高いのは当然でしょう。
 格差だけが広がって庶民に何の恩恵もなかったというアベノミクスに対する批判は完全に的外れだと思います。このような見方は経済の統計数字や現実をみていない偏見と思います。

 現実に安倍政権時代、日本全体の格差は縮小しているのです。格差を測るには、<ジニ係数>といって所得の不平等さを測る典型的な指標があります。
 ジニ係数では格差の状態を0から1までで表します。例えば各人の所得が均一で格差が全くない状態は0、たった一人で全ての所得を独占する場合は1という具合です。このジニ係数は安倍政権時代に一貫して下がり続けたのです。
 安倍政権時、日本全体の格差は縮小し続けたのです。これが経済指標で見る統計上の事実です。また同じく安倍政権時代、相対的貧困率も著しく低下しました。
 相対的貧困率とは、人々の所得の中央値、中央値というのは平均値と違って順位が中央の数宇を取ります。例えば100万円から1000万円までの年収の平均値は皆の収入を足して人数で割って求めるのですが、中央値は上から順番に並べて真ん中の人の値をとるわけです。所得の状況を測る場合、一般的に平均値で取ると、所得が極めて大きい人が存在していて、その人の所得が多すぎるたけに平均値は上を向いてしまいます。中央値ですと、参加者の真ん中の人の数字となりますので、所得などを測る場合は実態に近い数字が得られるわけです。
 相対的貧困率とは、日本全体の所得の中央値の半分しか所得がない人の度合いを指します。
 この相対的貧困率も安倍政権時に劇的に低下したのです。なぜかというと、株価が大きく上がっていくような好調な経済状況でしたので、若年層や女性など、比較的弱い立場にある人たちが多く職につけて、全体的な所得水準が上がったからなのです。かように経済統計上はアベノミクスによって、日本ではジニ係数も低下し、相対的貧困率も低下するという、明らかに格差の是正効果が起きていました。これが経済統計上の事実です。

 これらアベノミクスのプラス効果が日本社会全体に知れ渡っていません。昨年からはコロナの波が襲ってきて、日本中で苦しんでいる人が続出しているわけです。またアベノミクスによって株価が大きく上がったのですが、日本人の多くは株式投資を忌み嫌っていますので、その恩恵を受けていない人がほとんどなわけです。こうなるとコロナの関係で苦しんでいるのと対照的に株価が上がって喜んでいる人を見比べて、格差が広がったような錯覚が日本中に広がっていると言えるでしょう。

●無駄が多く非効率な日本のシステム
 アベノミクスは<大胆な金融緩和><機動的な財政政策><民間投資を喚起する成長戦略>の3つの矢から構成されています。このうち<大胆な金融緩和>は現在も続けられていますし、<機動的な財政出動>も同じく現在実行されています。問題は<民間投資を喚起する成長戦略>がうまく行かなかったことです。
 金融緩和は日銀が金利を引き下げればできることですし、財政出動も、政府は国債を発行して予算を大きく組めばできることです。ですから、これら二つの矢に関しては実行してきましたし、これからも続くわけです。ところが一番難しく、且つ一番重要なのが最後の<民間投資を喚起する成長戦略>の断行なのです。
 <成長戦略>と言えば格好がいいわけですが、この成長戦略は厳しいことでもあるわけです。それは生産性を上げるという根本的な問題に取り組まなければならないからです。
 日本は国際比較して極めて労働生産性が低いのです。労働生産性が低いということは、一人あたりの働きが、無駄が多く非効率だということです。
 例えば、昨年コロナ禍で国民一人あたり10万円ずつ給付するという政策が実行されました。現在のネット社会においてであれば、10万円給付など1日で完遂できそうな気がします。実際、多くの先進国では同じような政策を打ちましたが、瞬時に現金を配ることができました。ところが日本では何カ月かかったことか、これは記憶に新しいことと思います。それだけ日本の行政全体無駄だらけなのです。今の時代であればネットを使って一瞬でできることが、数カ月かかってもできないという驚くべき非効率な社会であることが白日のもとにさらされました。ですからデジタル庁の創設となったわけですが、これは単なる一例であって一事が万事で日本社会全体の効率性は極めて低く、これではお金を稼げるわけなどないのです。
 実際、日本の労働生産性は先進国の中ではダントツの最下位です。G7各国と比較しても最下位、日本はイタリアのような非効率な社会よりもさらに生産性が低いのです。日本はOECD37カ国の中で労働生産性は26位で昨今、韓国にも抜かれたのです。とにかく日本中、生産効率の悪い中小企業だらけなのです。

 その中小企業が日本の全産業の99%を占めていて、日本の全雇用の7割をカバーしています。生産性が悪いのですから稼げるわけもなく、これら中小企業は6割が赤字決算続きです。当然、税金も支払っていません。弱者を救済することは大切なことですが、同時に切磋琢磨して、自らが稼げる体制を作っていくことも必要なのです。日本社会は弱者に極めてやさしい社会なので、弱者保護がどこでも行き届いているのが実情です。現在の衆議院選挙では「分配を増やせ」、との声が与野党ともに強くなっていますが、日本はあまりに分配をしすぎていて、圧倒的に効率の悪い社会を作ってきたというのが現実なのです。本来は退出すべき企業が退出しないので、新陳代謝が起きず、成長分野に人が回らないのです。成長分野に人が回れば、生産性が高いですから、自然に賃金も高くなっていくのですが、全体が成長しないし、それでも保護政策が行き届きますので、倒産なども起こらず、社会に新しい風が吹いてきません。

 政府の保護政策もあって、今年上半期の倒産件数は2937件、これは前年比24%減であり、かつ57年ぶりの少なさなのです。コロナで苦しい、大変だと言われていて、それは事実なのですが、日本政府はそれを助けるために、銀行の融資を促し、苦しい中小企業には現金給付を行って多大な援助をしています。ですからコロナでこれだけ苦しいわけですが、倒産件数が過去最低ということとなっているのです。これはいいことではありますが、それだけ援助を行っているのだ、という事実を知らなければならないのです。というのもコロナ禍において日本全国の中小企業には50兆円近い融資を行っていますが、これが今後、相当量こげつく可能性もあり、その損失は最終的に日本全体で負担、いわば税金が使われることとなるからです。
 日本国の借金は増え続け、いまではGDPの220%を超えています。それだけ借金に借金を重ねてきました。ところが日本人の収入はこの30年間ほとんど増えていないのです。一体何にこの資金は使われたのでしょうか? ところが同じくこの30年間において米国では賃金が48%増えました。OECD諸国全体でも平均で33%も増えているのです。日本だけが増えていません。これは日本の労働生産性が低いから起こっていることなのです。

「日本の企業が空前の利益を上げているのではないか!」と反論する向きもあるでしょうが、日本の企業は海外で売り上げを伸ばし、海外で利益を上げて収益を上げているのです。実は日本企業の国内の売り上げはこの20年間ほとんど増えていませんし、国内関係の利益は金利低下の恩恵による金利収入の低下がほとんどなのです。
 かような状況では日本国内の雇用を増やすこともできませんし、賃金も上げられないでしょう。そもそも日本経済が成長して日本の労働生産性が上がってくれなくては賃金を上げることなどできないのです。これが日本の現実なのです。アベノミクスは正しい政策であって、むしろ一番難しい<成長戦略>、いわば、日本経済の構造を変えていくことが成し遂げられなかったので、そこが失敗だったのです。
 かような正しい現状認識をもてば、今、この時点で<分配>を声高にいう与野党の政策は間違っています。日本はもっと生産性を上げて効率のいい社会を作っていく必要があるのです。それには各種の規制緩和を行ったり、厳しさをもって経済を運営する必要があるのです。

●日本の税制事情
 日本の税制も問題です。格差が広がったので富裕層に増税すべきとの議論がありますが、これも現状を全くわかっていない議論です。
 実は日本ではほとんどの人が所得税10%以下なのです。日本では各種の所得控除の制度があります。その結果、所得税率が0%から10%までの人は日本全国民の81%に及んでいます。この所得税0%から10%までの人は米国では22%、英国では2%、フランスでは0%です。かように日本は社会主義国そのものの税制なのです。一方で所得税率20%超支払っている人は日本全体のわずか4%にすぎません。一方で米国では20%超の所得税を支払うのは35%、英国は15%、フランスは21%となっています。如何に日本の税制が中間層に有利にできているか、わかります。かような甘えの行き過ぎた構造ではいずれ限界がきて、日本社会全体が沈没していく可能性があるでしょう。日本に足りないのはいわゆる自由競争の激しさ、切磋琢磨する厳しさなのです。それにもかかわらず分配ばかり与野党で叫んでいれば、日本の衰退は進む一方で、日本は一気に沈没に向かっていくでしょう。
 資産運用においても日本人はあまりに保守的で、預金ばかりしていて国力を低下させています。平均的な配当利回りが2%を軽く超えていて、中には4-5%の配当利回りもある株式投資を避けて、後生大事に預金ばかりしています。結果、日本の金融資産2000兆円のうち半分超の1000兆円がゼロ金利という<死に金>となっているのです。この1000兆円に株式投資の平均利回り2%もあれば一気に20兆円も社会に還元されるのです。ですから政府も貯蓄から投資へと奨励していますが、日本人の大多数は動こうとしません。このように全てにおいて日本全体が現状維持、消極的な姿勢では日本の将来はないのです。
 かような最中に与野党そろって<分配>を叫んでいます。経済の成長がなくて、生産性を上げようとする厳しさがなくて、どうして国全体が発展できるのでしょうか。今回の選挙をみていると日本の先行きに悲観的にならざるを得ません。成長戦略が機能せず、アベノミクスが行き詰まったのですが、その事実が広く伝わっていません。そしてこれからは成長もしないのに、さらに国民に分配するだけの政策ばかり花盛りとなっているのです。分配する原資がないのにお金を印刷して分配すればどうなることでしょうか。われわれの行く末は激しいインフレが待っていると覚悟したほうがいいでしょう。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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