“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2022.12
インフレが起こす激変

「利上げではない」「金融引き締めの意図はない」
 12月20日、日銀の黒田総裁は金融政策の修正について記者会見で強調しました。黒田総裁によれば、今回の政策修正は景気にプラスであり、金融市場の正常化を図るものということです。
 今回日銀は今までプラスマイナス0.25%としていた長期金利の変動幅を0.5%にまで拡大することを発表したのです。ところが翌日の新聞を見ると各紙、<事実上の利上げ><日銀 量的質的緩和策を修正へ>との文字が踊り飛んでいました。

●日本もいよいよ、デフレ時代からインフレ時代に?
 日銀黒田総裁は記者会見では「利上げではない」と利上げを否定するものの、現実に打ち出してきた政策は0.25%に抑えつけていた日本の長期金利の上限幅を0.5%にまで引き上げたのですから、「実質的に利上げ」と捉えられて当然でしょう。日本もいよいよ金利が付く時代へ、デフレからインフレへの波が到来しそうな勢いです。当欄では一貫してこのような事態に至ることを想定、これからくるインフレについて警鐘を鳴らしてきましたが、いよいよ来るべきものがやってくるわけです。
 多くの日本人は依然、デフレモードが抜けず、インフレという新時代に変わっていくことについて深刻に考えていないと思います。デフレ時代からインフレ時代に変わることはあらゆることが劇的に変わっていくのです。インフレ到来を覚悟し、それに備える必要があります。今後起こりうる変化の数々を考えてみたいと思います。

 既に日本でも物価高の勢いは止まらなくなってきて、多くの人が諸物価の高騰に悲鳴を上げている状況です。日銀も経済の専門家もその大半はこの物価高は来年収まると言っていますが、私はそう思っていません。40年ぶりの物価高が示唆するものは、大きな時代の変化で、いよいよ日本の本格的なインフレ時代到来を告げていると思います。
 総務省が12月23日発表した11月の消費者物価は、変動の大きい生鮮食品を除く指数が前年同月比3.7%の上昇となりました。これは1981年12月の4.0%以来、40年11カ月ぶりの上昇です。しかしながら庶民感覚では物価上昇率が3.7%などという程度とは感じないでしょう。というのも普段頻繁に使う日用品など身近なものの値上がりが極めて大幅だからです。例えば料理には欠かせない食用油は35.0%の上昇、牛乳は9.5%の上昇、外食は5.8%の上昇です。外食などは肌感覚では20%近く上昇している感覚があるのではないでしょうか。エネルギーをみると都市ガスは28.9%の上昇、電気代は20.1%の上昇です。家庭用耐久財は10.7%の上昇です。かようにあらゆるものが円安や資源高の影響を受けて大きく上がりました。この消費者物価の上昇は既に15カ月続いていて、これが日本の新しいトレンドとなっていくでしょう。

 これから物価高が落ち着くと思ったら大間違いです。世界を見ると、米国を中心として若干物価高が落ち着いてきたように報道されています。それは事実で、現に米国の消費者物価の上昇率は6月の9.1%をピークとして11月は7.1%にまで下落してきています。しかし米国はドル高の恩恵を受けていて消費者物価上昇は早くから始まっていたので、日本とは状況が違います。例えば米国の消費者物価に大きく影響を与える川上の物価、いわゆる企業物価の上昇率は7.4%なのです。
 物価は企業が扱う企業物価が上がって、それが消費者の価格に転嫁されて消費者物価が上がってくる流れとなっています。そういう意味では元の企業物価が上昇しているのは川下の消費者物価が上昇するサインなのです。

 米国の場合、企業物価の上昇率7.4%に対して消費者物価の上昇率7.1%ですから、企業は順調に諸物価の上昇を消費者に販売する価格に転嫁していった形です。これは企業としては当たり前のことであり、経済としては普通に回っているわけです。
 ところが日本の場合、川上の物価である、日本の企業物価の上昇率は9.3%の上昇です。伸び率が9%を超えるのは11カ月連続となっています。ところが日本の消費者物価の上昇率は現在わずかに3.7%に抑えられています。
 要するに企業側は自ら被っている9%超の物価高を消費者価格に転嫁すると売り上げが落ちてしまう可能性があると思い、価格転嫁を遅らせてきたわけです。ところがかような涙ぐましい努力もいよいよ限界に達してきました。そして日本企業も各企業が値上げラッシュとなってきたのです。日本の場合、「右へ倣え」と各企業一気に値上げに走ってきたというわけです。ですからこれは始まりなのです。まだ依然価格転嫁しきれていない企業がほとんどですから、あらゆるモノの値上げラッシュはこれから本番であり、今後も長期に続いていくわけです。要するに今後毎年、定例のように値上げが起こってくる可能性が高いのです。まさに日本でも年々物価が上がり続けるインフレの世界が到来するというわけです。
 これでは消費者としては賃金が上がらないと暮らしていけません。巷では「日本では賃金の上昇は難しい」との声が大半ですが、そのようなことはないと思います。
 というのも、物価が上昇しているのだから賃金が上昇しなければやっていけない状況となるからです。切実な問題として日本人の多くが「賃金上昇がなければ生活が成り立たない」という時代となっていくわけです。
 すでに日本最大の労働組合、連合が来春の春闘の賃上げ目標を5%と決めていますが、経営側も賃上げ要求に前向きに対応すると答えており、政府も企業の賃上げを強く後押しする方針です。結果として、来春の春闘で労働側は大幅な賃上げを勝ち取ることでしょう。かような流れがきっかけとなって、来年日本全体で賃金上昇が当たり前の流れとなるでしょう。こうして日本でも賃金も物価も上昇という本格的なインフレスパイラルが始まってくるのです。現在の景気状況を考えるととても賃上げなどできないと身構えている経営者も多いと思います。
 しかしながらインフレの波はあっという間に日本全体を覆いつくそうとしていますので、そこから生じてきた全国的な賃上げラッシュの流れに抗し切ることはできないと思います。

●深刻な人手不足、インフレの波には賢明な対処を
 また現在の日本は極端な人手不足状態となっていますので、賃上げが通りやすい環境でもあります。日銀が発表した日銀短観による全国規模の雇用調査、「雇用人員判断指数」これは雇用が「過剰」か「不足」かを答えた企業の割合を示している指標ですが、プラスなら雇用が「過剰」、マイナスなら雇用が「不足」というわけです。この数値なのですが、現在、全産業ではマイナス21、中小企業ではマイナス34と歴史的な人手不足を示しているのです。中でもサービス業の人手不足は深刻であり、中小企業のサービス業に限って数字をみると、マイナス41と、極端な人手不足状態が見受けられます。現在、円安とコロナ規制の緩和によって海外からくる旅行者は大きく増加していますが、それでも最盛期の半分に及びません。そのような最盛期の半分に至らない状況において、これだけ人手不足となっているのです。いったいこれからどのくらい人手不足がひどくなるか想像もつきません。人が足りなければ当然、賃金を上げなければ誰も働いてくれないわけです。こうみると、賃金上昇の波が生じてきた現在の日本で賃上げが加速しないという理由はないと思います。
 現にアルバイトや派遣などは時給がうなぎ上りの状況となってきました。派遣もアルバイトも時給は過去最高となって、これが毎月上がり続けているのです。正社員の給与が本格的に上がってくるのは時間の問題なのです。

 物価高に対して政府も危機感を持って対応しています。政府はガソリンの補助金を続けています。本来ですとガソリン価格は、リッターあたり200円を超えているのですが、これを政府は補助して価格を抑えているのです。補助金の支出は当初今年1月から3月までの時限措置ということでしたが、物価高を考慮して延長を繰り返していて、来年も継続する方針です。政府は今後、電気代もガス代も補助する方針です。この補助に政府が支出する金額は年間6兆円超に達する見込みです。これは消費税3%近くに相当する金額であり、現状は政府が大盤振る舞いで物価を抑え続けている状況なのです。それでいてこれだけ物価が上昇していて、依然、日本では価格転嫁が本格的になされていない状況であるということを深刻に考えておく必要があるのです。

「ただより高いものはない」
 政府がいつまでも人々を助けられると思ったら大間違いです。それは金利上昇、止まらない物価上昇、インフレの激化という流れとなって形を変えて庶民を直撃してくるわけです。
 近々に起こりそうなことは、インフレになって立ち行かない企業が続出して、日本全体で倒産ラッシュも始まる可能性が高いということでしょう。特に問題はコロナの打撃を和らげるために行ったいわゆる<ゼロゼロ融資>の返済が始まるのが大きいです。日本の企業は全体で146万社あると試算されていますが、その約11%に当たる16万社は企業が年間の営業利益でその企業の貸し出し利息が支払えないということです。これらの企業は今後の金利上昇とインフレの激化で窮地に追い込まれる可能性が高いでしょう。
 また個人にもインフレの波が大きく影響してくるでしょう。それは物価高ということだけでなく、いわゆる<住宅ローン>の金利上昇という形で襲ってくると思います。現在日本では8割を超える人は自らの住宅ローンは変動型を選択しています。変動型であればほぼゼロ金利で返済額が少なくて済むからです。
 そして住宅ローンの固定金利は、今回の日銀による実質利上げで来年1月から金利が上がってくると予想されています。今のところ政府日銀は長期金利は実質利上げしたものの、短期の政策金利を引き上げてはいません。ですから、変動型の住宅ローン金利は据え置いたままとなっています。しかしながら、現下の日本のインフレ進行状況を考えると、短期の政策金利を引き上げるのも時間の問題のように思えます。仮に短期の政策金利を引き上げると、変動型の住宅ローン金利は一気に金利が上昇となってくるのです。そして現下の日本の状況ではインフレの進展度合いが予想できず、金利もどこまで上がってくるか、政府がどのような方針になっていくか予想がつきません。いずれにしても金融情勢がこれだけ不透明になってきた中、個人の借金である住宅ローンを変動型にしているのはギャンブルのような状態と思えます。例えば米国のように住宅ローン金利が7%台に乗せると、返済額は10年で倍に膨らみます。ところが多くの日本人は自らがギャンブルを行っているとは認識していません。このギャップが怖いわけです。インフレ時代が到来するということは、あらゆることが従来とは変わってくると覚悟して備える必要があるのですが、どうしても多くの人はその変化を甘く見過ぎているようです。
 インフレ時代は「資産運用では株や不動産などインフレに対応できるもの」、「借金は固定金利」と方針は明らかなのですが、依然、日本人のほとんどは「資産運用は預金」、「借金は変動金利」を選択している人が大勢です。これでは時代を乗り切れません。歴史をみればわかるように、時代の変化に対応できた人とできなかった人では大きな格差が生まれてきます。政府が助けてくれると思ったらとんでもないことです。時代の変化をしっかり感じて果敢に行動する必要があると危機感を持ってほしいと思います。 

22/12

インフレが起こす激変

22/11

資産所得倍増プラン

22/10

インフレ時代に突入

22/09

無謀な為替介入(ヘッジファンドの餌食に)

22/08

株安望んだ米金融当局

22/07

食糧を武器にするロシア

22/06

中国、健康コードを乱用する当局

22/05

ソロスの警告

22/04

仏大統領選挙

22/03

脱ロシアという難題(サハリン権益の行方)

22/02

中露蜜月時代へ

22/01

賃金上昇が始まる?


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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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