“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2022.04
仏大統領選挙

「もはや私は大統領候補者ではない、全ての国民のための大統領になる」
 激戦の末、再び大統領に勝利したマクロン氏は力強く決意表明しました。
 どうしてもエリート臭さがあり、「金持ちのための大統領」というイメージが払拭できないマクロン氏ですが、今回は敗北したルペン氏の支持者にも気を配っています。
「ルペン氏を支持した、選挙で示された意見の違いを尊重する。より公平で平等な社会のため働き続ける」と付け加えることも忘れませんでした。マクロン氏は前回の大統領選挙の決選投票では全体の66%の票を獲得してルペン氏に33ポイントの大差をつけて圧勝しましたが、今回はそうはいきませんでした。マクロン氏の得票率は59%、ルペン氏は41%とその差を大きく縮められたのです。
 マクロン氏は今後5年間、フランスの政治の舵取りを任されたとは言え、その基盤はぜい弱になっています。

●今回の仏大統領選挙を分析すると
 今回の選挙の関心事をみると、現在、世界の人々の置かれた状況、その気持ちを示す傾向が見て取れます。
 前回、2017年に行われたフランス大統領選挙ではルペン氏の主張は「フランスのEUとユーロ圏からの離脱」に主眼が置かれていました。当時はイギリスではブレグジットの波で、あろうことか、イギリスがEUから離脱を選択するという歴史的な大変化が起こりました。
 続いてアメリカでは同じく<アメリカ第一主義>を掲げるトランプ氏が大統領に選出されたわけです。ここでは国際協調よりも自国優先という、新しい流れが全世界的に波及していました。
 当時のフランスのマクロン大統領誕生は、かような自国第一主義ではなく、国際協調を促す流れとして歓迎されたわけです。しかしその当時も将来的な楽観論はありませんでした。
 いずれマクロン大統領は、経済的にも行き詰まり、当時も大統領選に立候補していたルペン氏に時間の経過とともに激しく追い詰められることになっていくだろうと予想されていたわけです。案の定、フランスの多くの国民が現場に不満を抱き、ルペン氏支持の流れが大きく拡大していったことは否定できません。

 今回の選挙の最大の関心事についてのアンケート調査では、一番の関心事は物価動向をはじめとする経済問題という回答が多く、その比率は57%に及んでいました。
 一方、今世界中で一番の関心事となっていると思われるウクライナ問題については15%という驚くべき低さでした、さらに移民問題は25%というようになっています。いわば有権者の関心事は、日々の物価動向や自らの雇用を左右する移民問題などで、国際問題であるロシアのウクライナ侵攻への激しい非難が選挙の最大の関心事となることはなかったのです。

 結果、今回のフランス大統領選挙の一回目の投票の得票率をみると、マクロン氏は27.8%、極右のルペン氏は23.1%、そして極左のメランション氏は21.9%と続いていました。
 当然、決選投票では第一回目の投票で3位だったメランション氏の票がどこに流れるか、ということが焦点だったわけですが、さすがに極左のメランション氏から極右のルペン氏への票の流れは少なかったようで、結果、マクロン氏がより消極的な意味で支持されたということで、大統領選の決選投票で勝利したように思えます。基本的に生活が苦しく、現場に大きな不満を有している国民はかなり多いと思われます。

 マクロン氏とルペン氏の票の出方や支持者の傾向をみると、その違いや問題点がはっきり浮かび上がってきます。
 第一回目の投票でマクロン氏はパリでの支持率は35%、それに対して同じくパリでのルペン氏への支持率は5%にすぎないのです。パリのような都市部ではルペン氏は全く支持を得ていないことがわかります。
 ところがそのルペン氏は、地方では圧倒的に強いわけです。このあたりが昨今どの国でもみられる都市部と地方の断絶、持てる者と持たざる者の格差を著しく示しているとみていいでしょう。イギリスのブレグジットもアメリカのトランプ氏の当選もかような格差の拡大、それに伴う有権者の怒りが招いた結果だったという分析が一般的です。

●ルペン氏とプーチン露大統領は蜜月関係?
 もう一つ大きな要因として、最終的にはフランス国民は、ルペン氏のロシア寄りの姿勢を嫌ったものと思います。
 アンケート調査では、ウクライナ問題に大きな関心はないという結果は示されていたものの、フランス国民は潜在的にロシア寄りのルペン氏の姿勢を許容しなかったのではないでしょうか。ここは選挙戦において、マクロン氏が徹底的にルペン氏を攻めたところです。なにしろルペン氏とロシアのプーチン大統領は蜜月関係でした。
 驚くべきはルペン氏の資金源です。ルペン氏は現在のロシア系の銀行からの融資を返済中であり、実質、ルペン氏のスポンサーはロシア系の銀行なわけです。ルペン氏が率いる政党は、2014年の選挙資金としてロシア政府の息のかかった銀行から940万ユーロ(約13億円)の融資を受けており、尚も返済中とのことです。
 ルペン氏によれば、フランスの銀行は自分たちに融資してくれないので、やむなく外国の銀行から資金を確保しているとのことです。ルペン氏はこれについて、銀行の本籍地は重要なことではないと説明しています。
 しかし、これでは国を担う大統領候補としての説明にはなっていないと思われます。というのも、ロシアが欧米の選挙に積極的かつ不当に介入し続けてきたことは周知の事実であり、ロシアはあらゆる手立てを使って、欧米の政治の分断を図ってきていたわけです。そのロシアが今回のウクライナ侵攻のような暴挙を行ってきたわけですから、常識的に考えればとてもロシアを資金源にしている政党など信用するわけにはいかないでしょう。

 ルペン氏は選挙戦において、「マクロン氏はあらゆる手を尽くして国民を貧しくしている」と、現在、国民が憤っているインフレの問題に選挙戦の焦点を絞りました。
 そしてルペン氏は、とにかく物価を引き下げることを公約としてきました。これは庶民にとって最も心に響くところです。ルペン氏は消費税を20%から5.5%に引き下げることを強調、食料品など生活必需品については消費税をゼロにすると公約したわけです。
 そしてロシアとの密接な関係については、逆手にとって制裁を緩めるべきであると主張しました。もちろんルペン氏も今回のロシアの暴挙に対しても非難したものの、「ロシアがなくなるわけではない」として、必要以上に激しい制裁には反対の姿勢を貫きました。
 ルペン氏はウクライナへの武器供与については慎重な立場であり、特に天然ガスや石油などエネルギーの禁輸政策には反対の立場でした。
 そして「ロシアを排除しても結局、中国に接近するだけであり、ロシアと中国が超大国を結成するのを容認することは最も悪いアイデアである」と主張してきました。
 現在、世界各国とも今回のロシアによるウクライナ侵攻からエネルギーや食料の激しいインフレが生じてきて、その物価高に悲鳴を上げている状況です。ロシアが、欧米各国や日本などが禁輸政策を取ることで安くなった原油や天然ガスを入手しようとする動きが世界各地で水面下において起きているのが実情です。どの国もどの国家も自らが食べていかなければなりません。

●“対ロシア制裁”の現状
「現代社会で、誰かを深刻に孤立させるのは不可能だ。ロシアのような大国は特に無理だ」
 プーチン大統領はこのように述べていました。実際、日米欧などが積極的にロシアに制裁を科していると言いますが、現実は抜け穴だらけであり、欧州も日本もロシアからの輸入はほとんど減っていないわけです。かえってエネルギー価格の高騰によって輸入代金は拡大しているのです。
 日米欧などが今回のロシアの暴挙を懲らしめるために制裁を行えと世界中に呼びかけてもほとんど効き目はありません。例えばインド政府ですが、米国からロシアから石油を購入しないように圧力をかけられたインド政府は、「欧州は、インドが購入する1ヵ月分の石油を毎日ロシアから輸入しているではないか」と反論しました。これは事実で、対ロシア制裁においても、ロシアの最大の銀行であるズベルバンクは制裁の対象外であって、欧州各国はズベルバンクを通じてロシアから石油や天然ガスを大量に輸入し続けているのが実情です。
 かような現実を考えると、ルペン氏がロシア制裁について批判しても、返す言葉もないのが本当のところでしょう。

 ただ、それでも堂々とロシアとの関係改善を主張するルペン氏が大統領選挙に敗れたことは民主主義陣営にとっては朗報だったと感じます。
 仮にこの時点でルペン氏がマクロン氏を破り、フランスの大統領になった場合は、完全にNATO諸国が分裂気味になり、意見の統合が難しくなっていたでしょう。かねてよりルペン氏は、フランスのEUからの離脱、NATOの軍事指揮系統から離脱させることを強く主張してきました。フランスがNATOの指揮系統から外れれば、NATOの結束は乱れ、EU全体、並びに米国も含めた民主主義陣営の対ロシア戦略が壊滅的な打撃を被った可能性があります。
 そのような事態はロシアに利するだけです。そういう意味では今回、マクロン氏が大統領選挙で順当に勝ち上がったことは極めて重要な意味合いがあると感じます。
 プーチン大統領は今回の大統領選の結果を受けて、マクロン氏に祝電を送っています。「国務での成功や、健康と幸福を心から祈念する」とのことです。
 ロシアに対して極めて強い制裁を主導するイギリスのジョンソン首相や米国のバイデン大統領に比べれば、マクロン氏はプーチン大統領にとっても交渉相手となる首脳の一人でもあります。プーチン大統領はルペン氏の当選を望んでいたと思いますが、今回の選挙戦の結果も冷静に受け止めていると感じます。
 プーチン大統領によるウクライナ侵攻で、世界は劇的に変わりました。この世界的な混乱は始まったばかりで、当面、収拾の兆しは見えません。
 とりあえず、今回のフランス大統領選挙はマクロン氏の再選となって、民主主義陣営は大惨事を免れたというところでしょう。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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