“超プロ”K氏の金融講座
このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
「貯蓄から投資へのシフトを実現していく」
11月25日、岸田首相は日本国民の資産所得倍増プランの案を公表しました。
首相によれば「中間層を中心とする層が将来に渡って安定的に資産形成を行う環境」を整備したいということで、今後「一般NISAと積み立てNISAの両方とも無税の期間の恒久化」を実施したいということです。
また近く、NISAの無税枠の上限引き上げも発表されると思われます。ゼロ金利のなか、日本人の多くはその金融資産を預金に傾けすぎているという問題点が指摘され続けていましたが、政府も何とかして日本人の保有する2000兆円という膨大な金融資産を経済に還流させて日本経済を活性化して、また日本人全体に投資の恩恵を受けさせたいということで、矢継ぎ早に投資優遇の方針を打ち出してきています。この<貯蓄から投資へ>という方針は、10年前発足した安倍政権の時代から叫ばれ続けていることですが、実際問題として、政府がいくら音頭を取って、投資を奨励し続けても、日本国民は一向に耳を貸さず、日本全体、貯蓄から投資への動きは起こってこないのが現実です。今回の政府の目論見は成功するでしょうか? はたまた元に戻って日本人による投資は盛り上がらないのでしょうか? 一方何故、日本人は投資を嫌うのでしょうか?
●投資に尻込みする国民への政府の策
国策として<貯蓄から投資へ>と国が一生懸命になっても日本の場合、常に国民は冷めています。日本人全体「投資は怖い」と意識がしみ込んでいますし、実際、株式投資はじめとして「投資に手を出してひどい目にあった」という話が山のようにあります。
昨今でも米国の暗号資産を扱う世界的な大手企業が突如倒産して、資金が返済されないという事件がありました。まさにかような投資の失敗談は定期的にニュースになるような状態であり、「うまい話は気をつけろ」ということで投資に対して警戒感が消えないのが現実です。
また日本人全体が勤勉であり、「投資で稼ぐのは良くない」という道徳的な考え方も広く共有されていると思われます。「働いてお金を得るのはいいことだが、汗水流さないで投資によってお金を得ることは邪道である」という考え方です。
かような考え方以上に多くの人が投資を行わないのは、「投資における成功体験が欠如している」からという日本人の多くの現実もあります。政府はこれを問題視してきました。
現実に日本人の多くが投資において成功した経験が少なく、むしろ投資を行うことで損失を抱えてきた日本における長い過去の歴史があり、この「成功体験のなさ」が日本人の投資嫌いに繋がっているという問題意識です。日本政府はこの問題を何とかして改善し、国民全体に投資の成功体験を享受してもらわないと現実的な貯蓄から投資への動きは生じてこないとの強い危機意識もあったわけです。ですから日本政府がまず行ったことは、一般的な投資の入り口である投資信託の改革でした。
投資を行うと言っても、投資初心者や素人にとってはハードルが高いものです。投資をしたはいいが、損をしてしまったということは避けたい、というのが本音です。投資は自己責任というわけですから、余計に慎重になるのもやむを得ないことです。
ですから政府は、一般的な国民が投資しやすい投資信託の問題に対して手を付けることから改革を始めました。というのも、投資初心者が投資信託を通じて投資を行って、それが上手く成功すれば日本全体広く投資へと道が開かれていくだろうと考えたわけです。
日本政府は、投資信託の実体が諸外国と比べてどのようになっているか? 何が問題で、日本と米欧など諸外国との差があるのか? 調査したのです。
その結果、米国をはじめとする欧米諸国においては投資信託ではほとんど利益を出してきたのに、日本では投資信託がほとんど損失を出してきた事実が明らかになりました。
そしてその原因として、あまりにも高い手数料体系に問題があるとの結論に達したのです。2015年当時、金融庁長官に就任した森信親氏は投資信託の手数料の大々的な改革に乗り出しました。投資信託を販売する金融機関に対して、とにかく「高い手数料を課すことを許さない」という姿勢を鮮明にしたわけです。
それ以前は、投資信託の手数料は3%近い手数料は当たり前という感覚でした。さらに投資信託においては、信託報酬といって毎年取られる手数料もありました。しかしながらゼロ金利の中で、金融機関に3%超の手数料を支払ってその中で投資家が利益を得るのは極めて大変なことです。結果、投資信託は金融機関にとっては儲けの大きいおいしい商品でしたが、投資家にとっては手数料ばかり高くて利益を得られることが少ない商品だったという現実があったわけです。
そこで森長官は金融機関に対して徹底的な手数料の引き下げを求めました。
ところが米国のように投資信託の裾野が広く、膨大な資金が投資信託業界に流入してくるような体制であれば、当然そのスケールメリットから手数料が安くても十分経営が成り立つという投資信託業界の経営的な基盤があったわけですが、一方で日本の投資信託業界は規模も小さく、業界としてもとても安すぎる手数料では経営が成り立たない、という死活問題もあったわけです。
ところが森長官は何としても手数料を下げるようにと強力な行政指導を行いました。特に積み立てNISAのような初心者をはじめとする多くの国民の投資の入口になるような商品については、1%を超えるような手数料や1%を超える年間の信託報酬は許さないという姿勢を鮮明に打ち出したのです。
その後、ETF(上場投資信託)という商品が大々的に広がっていきました。ETFは指数に連動した商品となりますので、銘柄選びの必要がなく、銘柄を調査したり投資する企業を厳選するための専門家を必要としません、結果、大規模に人件費が削減できるのです。こうしてETFにおいて手数料は超割安となるのです。これら様々な画期的な改革によって、日本の投資信託においても手数料や信託報酬が劇的に下げられるようになりました。こうしてやっと日本の積み立てNISAの普及体制が整ってきたわけです。
この2015年からNISAの積み立てや投資を行ってきた方の多くは、米国株の上昇をはじめとする株式市場の上昇である程度恩恵を得てきたように思えます。
ただ、金融機関としてはこのようなETFのような商品を取り扱うことはほとんど儲けがないわけです。ですから積み立てNISAなど積極的に営業攻勢をかける金融機関はほとんどないと言えるでしょう。ネットなどを使って宣伝、普及、並びに口座設定などのきっかけをつかむための人を介さない営業はあったとしても、人を使った人海戦術で積み立てNISAを広げていくという流れが起きないわけです。ただ若い人はネット時代に慣れていますから、現在のNISAの優位制などは理解しているので、若い世代を中心に投資への流れは拡大傾向にあるのは事実です。
しかしながら若い人は多くの金融資産を保有していませんし、むしろ大半の金融資産を保有している年齢層は日本においては60歳以上の年齢層になりますので、その層は投資に対しての強いアレルギーがあるのが現実です。ですから日本全体の金融資産の状況を見渡すと依然、貯蓄から投資への波は起こっていないのが現実です。
ちなみに日本企業の株式の保有割合を年齢別にみますと、何と70歳以上が4割も保有しているという現実があるのです。日本企業に関しては余計に高年齢層に保有者が偏っています。非常に保守的な高年齢層に日本株の大半の保有が握られているのは問題で、この年齢層では日本株を売り越し続けているのが実体で、これを何とか若い層に移転させ、若い層も日本株に対して積極的な投資をするように持っていきたいものです。残念ながら若い人は国際的になってきていますので、投資なども米国株が主流となっているのが実情です。
●インフレ時代の金融対策
実際、これからの日本に到来するインフレ時代を考えると、株式投資は欠かせないと思われます。ニッセイ基礎研究所によりますと、米国の一人当たりの資産から得られる所得は7900ドル(約110万円)ということで、これは日本の一人当たりの資産から得られる所得1800ドル(約25万円)の4倍超に達しているのです。米国人の平均として資産所得が日本人の4倍を超えている事実をみれば、インフレ時代到来を見据えて、政府がNISAの拡充など投資を促す政策を急ぐのも当然でしょう。
先月の日本の消費者物価上昇率は3.6%でした。多くの人は実感として10%近い物価上昇が起こっているように感じていることと思います。現金が目減りしていくことを肌身で感じていることでしょう。政府もお金はありません。国民に投資を奨励することで、国民一人一人が資産所得を拡大してほしいということです。時代は変わっていきます。デフレが永遠に続くことはないし、ゼロ金利が永遠に続くということはありえません。国策を理解して政府の方針に沿って来るべきインフレ時代に備えるべきと思います。
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★『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/
経済アナリスト。
株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。
★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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