みんなでひとつ命を生きていく〜宮ぷーこころの架橋プロジェクトから〜
このページは、特別支援学校教諭で、作家でもある「かっこちゃん」こと山元加津子さんによるコラムページです。
かっこちゃんは障害を持った子どもたちと、かけがえのない一人の友達として触れ合い続けています。その様子は『1/4の奇跡』という映画にもなりました。このコラムでは、かっこちゃんの同僚で、2009年2月に突然脳幹出血で倒れ、奇跡的に命をつないだ宮田俊也さん(通称・宮ぷー)との触れ合いの様子を中心にお届けします。
新しい本を最近作っていました。宮ぷーの病院へ行ったら、おととい「本の題名どうなったの?」と聞いてくれたので「『ありがとうの花』になったよ」と私が言ったときに「ありがとうのはなのおはなしをもういっかいきかせて」と宮ぷーが言いました。宮ぷーは脳幹出血で二年半前に倒れて、今は意思伝達装置レッツ・チャットで思いをつたえられるようになりました。
それはこんな話でした。
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養護学校で出会った千恵ちゃんのこと。千恵ちゃんはね、トイレでもどこでも、私が千恵ちゃんを抱きかかえたら、「ありがとう」、座ってもらったら「ありがとう」ってありがとうを何度も何度も言うんだよ。
千恵ちゃんに、「そんなにありがとうって言わなくてもいいよ。私は千恵ちゃんとトイレに来るのがうれしいし、千恵ちゃんといると楽しいし、そんなに何度もありがとうばかり言っていたら、千恵ちゃんずっとありがとうばかり言わなくちゃならなくなるよ」って言ったの。そうしたら、千恵ちゃんがこう言ったよ。
「かっこちゃん、そうじゃないよ。お母さんが教えてくれたの。ありがとうって言うと、千恵子の心に花が咲くよって。相手の心にも自分の心にもありがとうって言うと花が咲くよって。お母さんがね、千恵子は事故で障害を持って、なくしたものもいっぱいあるかもしれないけど、そのおかげで、ありがとうっていっぱい言う機会をもらったんだよ。人に手伝ってもらわないと千恵子は生きていけない。でも、そのたびにいっぱいありがとうと言えるね。そうすると、心に花が咲くんだよって、お母さんが教えてくれたよ。かっこちゃん、ありがとうと言うと、うれしいよ。ありがとうと言うと、しあわせになる。私もみんなもしあわせになる。私は、みんなに手伝ってもらわないといけない。でもだからこそ、ありがとうがいっぱい言える体にしてもらったんだよ」
千恵ちゃんがそう教えてくれたの。私は泣いたんだよ。トイレで千恵ちゃんと抱き合って泣いたの。ありがとうっていっぱい言って泣いたよ。私はそれから、ありがとうと言うと、なんだか、心にひまわりがひとつ咲いた気がしたの。千恵ちゃんはひまわりが好きだからね。
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宮ぷーは介護士さんや看護師さんに「ありがとう」を言っている? そう聞いたら宮ぷーは「(レッツチャットの)何度もボタンを押さないとありがとうが出てこないから、まにあわないから、最初から言えない」と言いました。確かにボタンをいくつも押したりして、時間がかかってしまうから、そのあいだに、お忙しい看護師さんたちは行ってしまわれるなあと思いました。もっとすぐに言えるところに入れられない? 宮ぷーがありがとうと言うと、いっぱいいっぱいありがとうの花が咲くよ、と私がいいました。
でも、よく見てみたら、レッツチャットのすぐに使える言葉のボタンは二つしかなくて、「外部出力」「にょうきあててください」としてしまっているからむずかしいなあ、仕方がないねと言って帰ったのです。でも、昨日病院へ行ったら、宮ぷーが意思伝達装置の板のレッツチャットの配置の中の自分で作れる場所を変えてくれていたのです。すごく感激しました。レッツチャットは、最初文字を選ぶときに、機能、あかさたな、はまやらわの三つのどれかを選びます。文字でなく、機能を選んだら、最初の行は、一番よく使う、「発音」「外部出力」そして、今までは「尿器あててください」「緊急」というふうに並んでいました。「外部出力」と「尿器当ててください」の二つはよく使う言葉として、オリジナルの中に保存しなくても使えるのです。でもそれ以外は、二行目の「オリジナル」の中に保存して使うことになります。そこに保存した言葉は何度目かのボタンでようやく出てきます。
宮ぷーのレッツチャットは、「発音」「外部出力」「ありがとう」に変わっていました。「尿器当ててください」はすごく大切で緊急を要する言葉なのに、いいの? と聞くと「いいよ」と言って、昨日は何度も何度も私にありがとうを言ってくれたのです。
今度の本『ありがとうの花』(三五館刊)は毎日8時に配信させていただいているメルマガ「宮ぷーこころの架橋ぷろじぇくと」が本になっています。このメルマガは最初は宮ぷーの回復をお伝えしていました。日記に、多くの方が感想や、思いをメールで返してくださいます。そして宮ぷーの枕元で、いただいたメールを読みます。宮ぷーにとってはなんと大きな励ましをいただいていることでしょう。
宮ぷーも私も、たくさんの方の応援の中で、守っていただいて、ありがとうの愛いっぱいの中で毎日を生かしていただいているなあとしみじみと思います。
この本の中で私は、誰もがみんな宇宙の真ん中で、過去と未来の真ん中で生きているのじゃないかと書きました。本を書きながら、いっそうその思いを強くしています。
私たちは誰もが自分のために生きているようだけれど、それだけではなく、宇宙のすべてのもののために存在しているのじゃないでしょうか?
そしてそれは、一対多ではなくて、いつも一対一だと思います。あなたは大きな宇宙の真ん中にいて、私のために、そこにいてくださるけれど、私もまた、宇宙の真ん中にいるあなたのために何かの役に立っているのだろうかと思うのです。
そして、今はっきりとわかるのは、宇宙も時間も人もことも何もかもが、お互いのために、すべてがいいようになるように存在してあるということです。
そしてまた、突拍子もないことを言うようですが、私はいつも、宇宙全体はひとつの命のように思えてならないのです。その中で、誰もが約束事のようにして、大切な役割を担いあいながら、何もかもがここに存在するのだとそんな気がするのです。
宮ぷーが倒れたことも、今、こうして、多くの方とつながれることも、その宇宙の約束なのだろうかと思うのです。
そんなふうに思えたとき、ああ、何もかもが本当になんてうれしくありがたいことだろうと胸がいっぱいになります。すべてのものに心からありがとうと思いながら、思い合って、ありがとうの花をたくさん咲かせていけば、きっとこの宇宙はもっともっと愛でいっぱいで、キラキラ輝くことでしょう。
本を書いている間に何度も何度も泣いちゃいました。みなさんのメールを読むたびに泣けるのです。編集者の方もデザイナーさんも、いっぱい泣いてうれしい気持ちになったよと話してくださいました。わーい。人はきっと心が揺さぶられたらうれしい涙がいっぱい出るんですね。
今年も夏がやってきました。私の学校の花壇にはたくさんのひまわりの種を植えました。ひまわりが夏を喜ぶようにずんずん大きくなって、今二つ、太陽に顔を向けて大輪の花を咲かせました。もうじき、花壇いっぱいのひまわりが咲くことでしょう。私の心の中にありがとうの花をたくさん咲かせていたいです。
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『ありがとうの花』(三五館刊 山元加津子著 1,155円(税込))
★ 山元加津子と仲間たちとのおかしな毎日を綴る
いちじくりんHP:http://itijikurin.blog65.fc2.com/
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宮ぷー(右)と一緒に。
1957年 金沢市生まれ。エッセイスト。愛称かっこちゃん。石川県特別支援学校教諭。障害を持った子どもたちと、教師と生徒という関係ではなく、かけがえのない一人の友達としてふれあいを続けている。分け隔てなく、ありのままに受け入れる姿勢は、子どもたちの個性や長所を素晴らしく引き出している。そんな子どもたちの素敵さを多くの人に知ってもらおうと、教師をしながら国内外での講演・著作活動など多方面に活躍中。教師、主婦、作家、母親という4役を自然体でこなし、まわりの人に優しく慈しみをもって接する姿は、多くの人の感動を読んでいる。著書に『本当のことだから』、『魔女・モナの物語』(両方とも三五館)、『きいちゃん』(アリス館)、『心の痛みを受けとめること』(PHPエディターズグループ)、『満月をきれいと僕は言えるぞ』(宮田俊也・山元加津子共著 三五館)などがある。2011年7月に新刊『ありがとうの花』(三五館)を発売。
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山元加津子さんHP「たんぽぽの仲間たち」:http://www005.upp.so-net.ne.jp/kakko/