みんなでひとつ命を生きていく〜宮ぷーこころの架橋プロジェクトから〜
このページは、特別支援学校教諭で、作家でもある「かっこちゃん」こと山元加津子さんによるコラムページです。
かっこちゃんは障害を持った子どもたちと、かけがえのない一人の友達として触れ合い続けています。その様子は『1/4の奇跡』という映画にもなりました。このコラムでは、かっこちゃんの同僚で、2009年2月に突然脳幹出血で倒れ、奇跡的に命をつないだ宮田俊也さん(通称・宮ぷー)との触れ合いの様子を中心にお届けします。
今日は、私の今の私の夢を紹介したいです。
私の新しい本『宇宙(そら)の足跡』の冒頭です。この本は電子書籍です。
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宇宙(そら)の足跡
部屋の灯りを消すと、天井の大きな窓からたくさんの星が輝いているのが見える。
月の大きな日には、ベッドが四角い窓の形に照らされていることに気がつく。
ベッドに横になって、星や月やそして濃紺の宇宙のことだけを考えていると、
目をつぶっても、そこにはひんやりとした宇宙があり、
たくさんの星がきらめいているのが見える。
紺色の宇宙は私の心の中を同じ色でいっぱいにして、
私の体はやがて、宇宙に融けていくのだ。
私は、実感する。
私は今、宇宙とたしかにつながっている……。
大学の授業が終わると、私は毎日、アルバイトに通っている。
お金をためて、外国へ旅に出かけるために……
それは、私とあきらが何度目に会ったときだっただろう。
日曜日、私たちは街の中を、手をつないで歩いていた。
街路樹の向こうの方で、誰か男の人が、大きな声で何かを叫んでいた。
「通ります。通ります。通ります!」
男の人の周りには、人だかりができていた。
あきらがつぶやいた。
「あ、兄貴だ」「お兄さん?」
「うん、ここにいて」
あきらは人の輪の中へ入っていった。私は、どうしてだかわからないけれど、そうするほうがいいような気がして、あきらについて行った。
「すみません、ちょっと通してください」
人混みをわけて、あきらは男の人の方へ進んで行った。私もあきらのあとを追った。
あきらは叫んでいる背の高い男の人の背中をそっとたたいて優しい声で言った。
「にいちゃん、どうかした?」
「あ、君。この人のご家族? 工事中だから通れないって言うのに、この道をどうしても通りたいと言って聞かないんだけど、どうしたらいいのかな」
「すみません。兄は自閉症で、毎日この道を通ると決めているものですから」
「自閉症?
うーん、でも、困るんだよね。危ないから……。
ほら、すぐそこを右に曲がると、またあっち側に出るから」
ヘルメットをかぶって作業着を着た温厚そうなおじさんは、指をさしながら、少し困った顔をして言った。
おじさんの声を聞いてもお兄さんは必死に言い続けていた。
「通ります! 通ります! 通ります!!」
怒っているみたいだった。顔を真っ赤にして、自分の頭を何度も何度も自分で殴っていた。足をどーんと踏みならした。お兄さんは泣きそうだった。
まるで惹かれるように、私はお兄さんに近づいた。
そして、お兄さんのそばで、
「あきらくんのお兄さん」と小さな声で呼んだ。
それだけだった。
それだけだったけれど、あきらくんのお兄さんは怒るのをやめて、私の顔をじーっと見た。
お兄さんの真っ赤な顔がスーッと白くなるのがわかった。
そしてゆっくりと、抑揚のない口調で
「僕は、あきらくんのお兄さんです」と言った。
お兄さんはもう怒っていないみたいだった。
それからお兄さんは私の手をとってくれた。
もう道のことを忘れたのか、私と工事中じゃない道を歩き出した。
「驚いたなあ。何か魔法使った?」
「何も。ただ、『あきらくんのお兄さん』って呼んだだけ。そうしたら、『僕はあきらくんのお兄さんです』ってお兄さんが言ったの。それだけなの」
そのときのあきらの様子を私はずっと忘れることはないだろう。
あきらはたぶん本当は泣き虫じゃないと思う。
でも、そのとき、私はあきらの二度目の涙を見た。
あきらのその涙を思い出すだけで、
私は、あきらのことがもっともっと大好きになる。
あきらとあきらのお兄さんと一緒にいると
私は亡くなったおばあちゃんのことを思い出す。
たぶん、空気のにおいが同じなんだろう。心地よさが同じなんだろう。
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この本を読んでくださった一人の方が「自閉症のお子さんの素晴らしい精神性について、考えました」とメールをくださいました。ある方は「宇宙とつながって、僕たちも生きているんですね」と書いて下さいました。
私は本を書くようになって、20年ほどになります。その本は、ずっと紙の本でした。けれど、今は、お友だちの会社で、電子書籍を出すことに夢中になっています。
電子書籍は、世界中どこでも読んでいただけるし、目の見えない方には音声で読んでいただけるのがうれしいです。
私が夢中になっているのは、私の本だけではないのです。いろいろな方に執筆をお願いして、編集をしたりもしています。
私はこのごろ、「幸せ」についてよく考えるようになりました。幸せってなんだろうと思ったときに、私はきっと与えられた人生を一生懸命生きることかなと思いました。そして、たくさんの素敵な人と出会って、いろいろな大切なことや、本当のことに気がついていくことだろうかと思うようになったのです。
たとえば、障がいを持っているお子さんが今、たくさん思いを伝えてくれるようになっています。文章も絵も、とても素晴らしい。それから、日本ではなくて、外国で人生を送っている日本人の人、女の人だけど心は男の人だったり、男の人として生まれたけれど、自分は女性だなと感じている人。素敵なもの作りに取り組んでいる人もいます。たくさんの方と出会ううちに、その人だからこそその人でないと、経験できなかった人生について、あるいは、経験について、お話をうかがうようになりました。
いろんな人の文章を本の形で読みたいし、多くの人と共有したいとも思うようになりました。それはきっとみんなでひとつの命を生きていて、お互いが学びあって、助け合っていくことにもつながるように思ったのです。
私は私しか歩めない人生を歩んでいる。そしてそのことは、宝物だと感じています。それは誰も同じこと。そして、実はそれは本当はすべての人の宝物でもあると思うのです。だって、みんなでひとつですもの。だったら、その人しか経験できなかったことを読む機会に恵まれなくちゃと思います。
電子書籍は殆ど売れなくて、デザインも私の他に、編集をしてくださる方も、それから、本を出してくださる方も、書いてくださっている方も、今はほとんどボランティアのような状態です。でも、いつか、きっと、多くの方に読んでいただけるようになったらなあと思うのです。これが今の私の夢のひとつです。
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宮ぷー(右)と一緒に。
1957年 金沢市生まれ。エッセイスト。愛称かっこちゃん。石川県特別支援学校教諭。障害を持った子どもたちと、教師と生徒という関係ではなく、かけがえのない一人の友達としてふれあいを続けている。分け隔てなく、ありのままに受け入れる姿勢は、子どもたちの個性や長所を素晴らしく引き出している。そんな子どもたちの素敵さを多くの人に知ってもらおうと、教師をしながら国内外での講演・著作活動など多方面に活躍中。教師、主婦、作家、母親という4役を自然体でこなし、まわりの人に優しく慈しみをもって接する姿は、多くの人の感動を読んでいる。著書に『本当のことだから』、『魔女・モナの物語』(両方とも三五館)、『きいちゃん』(アリス館)、『心の痛みを受けとめること』(PHPエディターズグループ)、『満月をきれいと僕は言えるぞ』(宮田俊也・山元加津子共著 三五館)などがある。2011年7月に新刊『ありがとうの花』(三五館)、2011年11月に『手をつなげば、あたたかい。』(サンマーク出版)を発売。
宮ぷーこころの架橋プロジェクト メルマガ登録:
http://www.mag2.com/m/0001012961.html
同プロジェクトから生まれたHP:http://ohanashi-daisuki.com/index.html
山元加津子さんHP「たんぽぽの仲間たち」:http://www005.upp.so-net.ne.jp/kakko/