みんなでひとつ命を生きていく〜宮ぷーこころの架橋プロジェクトから〜
このページは、特別支援学校教諭で、作家でもある「かっこちゃん」こと山元加津子さんによるコラムページです。
かっこちゃんは障害を持った子どもたちと、かけがえのない一人の友達として触れ合い続けています。その様子は『1/4の奇跡』という映画にもなりました。このコラムでは、かっこちゃんの同僚で、2009年2月に突然脳幹出血で倒れ、奇跡的に命をつないだ宮田俊也さん(通称・宮ぷー)との触れ合いの様子を中心にお届けします。
大好きなゆきちゃんの夢を見ました。昔一緒に勉強をしたお友だち。大好きで大好きで、思い出すと元気をもらうのです。岡山で1000人集会が開かれたときに、チーム宮ぷーがバスを仕立ててくださって、みんなで来てくださったのだけど、そのときに、ゆきちゃんもお母さんと来てくださったりもしました。ゆきちゃんに会いたいなあ。ゆきちゃんのことを書いた日記がないかなあと思ったらいくつもありました。
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その日、ゆきちゃんの様子が、いつもと少し違っていました。ちょっとだけですが、いつもより、怒っているようなのです。ときどき唇を噛んではがまんをしている様子が見られました。そしてその理由は、たぶん、日曜参観日に理由があったのだと思います。ゆきちゃんは決して、参観日がきらいなわけではないのです。大好きなお母さんが学校に来てくださる日はとてもうれしそうなのです。それではどうして、ゆきちゃんは怒っているのでしょうか? ゆきちゃんの言葉の中に、そのヒントが隠されていたようでした。ゆきちゃんは、「今日は日曜日だけど、学校はOPENです。トイレもOPEN。教室もOPEN。日曜日だけど、OPENです」と言いました。「そうね、今日は日曜日だけど、OPENね」「今回の日曜日はOPENです」
ゆきちゃんは、昨日、日曜日だけどOPENだということを何度も言いました。たぶん、いつもなら、日曜日はお休みのはずだけど、今日は学校はあるんだ。あるんだけど間違いじゃなくて、今回はあるんだと自分に言い聞かせて、不安になりそうな気持ちをたてなおしていたのだと思います。
ところで、行事があって、日曜日が学校になった日はたいていは月曜日が代休になります。けれど、そのときは、金曜日が代休になって、そしてそのあと日曜日が学校と言うことになりました。ゆきちゃんは月曜日に学校に来て、「日曜参観日の次の月曜日は代休のはずだけど、今日はOPENです」と言いました。「そうね、金曜日お休みだったものね」
ゆきちゃんはまた唇をかみながら「今日は昨日がお休みだったけれど、OPENです」とまた言いました。
これまでの長い間、日曜日が学校の場合は次の月曜日がお休みになるんだという法則みたいなのを作ることで、ゆきちゃんは自分の気持ちをたてなおすことをしてきたのだと思います。ゆきちゃんはなんてけなげなのでしょう。
学校には、いつもと同じじゃないということがとても不安に感じられる子供さんも多いように思います。私たちはみんな、一人一人違った感性を持ち、違った気持ちを持ち、違う苦しみや痛みを持っていると思います。そしてその中でみんな一生懸命生きている……。
私は、一緒にすごしている学校のこどもたちのそんな気持ちをちゃんとわかって一緒にいられてるだろうか。その日はゆきちゃんのつぶやきにたまたま気がつくことができたけれど、気がつけてない日もいっぱいあるのだろうなあと申し訳ない気持ちでいっぱいになったのでした。
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給食に豆パンが出ました。たくさん豆が入ったおいしい豆パン。
給食が終わって、お昼休みに一緒に遊んでいたら、ゆきちゃんが急に
「豆パンの豆は15個です」と言いました。数えながら食べていたのかなあ……
そんなふうに見えなかったなあ……そう思っているとゆきちゃんが
「かっこちゃんの豆パンの豆、何個?」と聞くのです。わからない……食べているときに、数えてなかったもの。「ゆきちゃん、私の豆パンの豆、何個だったの?」聞かれたことがわからないときは、つい聞き直しちゃう私。 そのとき、ゆきちゃんが断定しました。
「かっこちゃんの豆パンの豆は13個です」
ゆきちゃんは豆パンの豆を数えていたんじゃなくて、知っていたんだ……知ってるんだ……と思いました。だって、私はただぱくぱく食べていただけだもの。
ゆきちゃん、知ってたの? ゆきちゃんはうれしそうに体を揺らして笑っていました。
ゆきちゃんは、すてきな力をたくさん持っています。たとえば15年前の7月30日は何曜日か、10年後の8月3日は何曜日かを知っています。それからお天気もくわしいのです。明日のお天気は何? 何月何日のお天気は何だった? ゆきちゃんはにっこり笑って答えてくれます。ゆきちゃんはどうして、そんなにすごい力をいっぱい持っているのでしょう。お母さんにお尋ねしたら、お母さんは「きっとお天気や数字が好きだからだと思います」と教えてくださいました。ゆきちゃんや子供たちだけが特別なのじゃなく、誰もが本当はみんなすごい力を持っている。けれど、ゆきちゃんやみんなは心の目と耳をすますことが上手で、そして、好きなことに一生懸命なのかもしれません。
学校にいると、人はみんなこんなに素敵でこんなに大きな力を持っているんだよと子供たちが教え続けてくれている気がするのです。
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一日の終わり、お風呂に入りながら、今日のことを振り返るのが癖です。
ある日のこと、「今日のゆきちゃんはちょっとおかしかったなあ……」と思いました。
なんだかずっと泣き顔で「深夜番組を何本録画する? 15本するか?」と私に聞くのです。「そう、15本したいの?」と私が言うと、「15本は多すぎる。何本するかかっこちゃんが決める」とゆきちゃんが言うので、「じゃあ、14本」というと、今度は「14本は少なすぎる」とまた泣き顔をするのです。「それじゃあ、やっぱり15本」というと、「15本は多すぎる」とゆきちゃんはまた言います。私は困って、「14本と15本」と言うと、ゆきちゃんは「途中は難しいからだめ」とまた涙を浮かべるのです。
その日、ゆきちゃんはもしかしたら、何本番組を録画するかなんて、どうでもよかったのかもしれません。
その日から、ゆきちゃんのクラスの先生が、結婚をされて、少しだけお休みをとられていたのです。ゆきちゃんは大好きな先生が、結婚されるのはとってもうれしいけれど、やっぱりそばにいたいなあと思ったのかもしれません。だから、今日のゆきちゃんは、ちょっと泣き虫だったのかな? いつもいつもゆきちゃんの先生はゆきちゃんのそばにいてくれます。ゆきちゃんをすごくすごくかわいがっておられるから、ゆきちゃんも、毎日うれしいだろうなあとまたお風呂に入りながら、また考えました。
ゆきちゃんは去年は私のクラスでした。ゆきちゃんが、教室も私の教室から遠い場所になって、違う先生と楽しい時間をすごしているのが、実はちょっぴりさびしくもあったけれど、こんなふうにゆきちゃんと先生が大好き同士で毎日すごしておられるのを見るのは、とってもうれしいのです。ゆきちゃん、だいじょうぶだよ。すぐに先生、帰ってこられるからね。ほどなくゆきちゃんの大好きな先生が帰ってこられて、ゆきちゃんはまた笑顔になりました。
ゆきちゃん、先生はすぐに帰ってこられるからね。だいじょうぶだよ。
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これは、昔、北國新聞に「心ぽかぽか」という連載をさせていただいていて、そのときに書いた文章です。ゆきちゃんどうしてるかな? 私の中には大切なお友だちがいっぱいいて、ときどき思い出すと元気百倍になるのです。私はとっても幸せだなと思います。
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宮ぷー(右)と一緒に。
1957年 金沢市生まれ。エッセイスト。愛称かっこちゃん。石川県特別支援学校教諭。障害を持った子どもたちと、教師と生徒という関係ではなく、かけがえのない一人の友達としてふれあいを続けている。分け隔てなく、ありのままに受け入れる姿勢は、子どもたちの個性や長所を素晴らしく引き出している。そんな子どもたちの素敵さを多くの人に知ってもらおうと、教師をしながら国内外での講演・著作活動など多方面に活躍中。教師、主婦、作家、母親という4役を自然体でこなし、まわりの人に優しく慈しみをもって接する姿は、多くの人の感動を読んでいる。著書に『本当のことだから』、『魔女・モナの物語』(両方とも三五館)、『きいちゃん』(アリス館)、『心の痛みを受けとめること』(PHPエディターズグループ)、『満月をきれいと僕は言えるぞ』(宮田俊也・山元加津子共著 三五館)などがある。2011年7月に新刊『ありがとうの花』(三五館)、2011年11月に『手をつなげば、あたたかい。』(サンマーク出版)を発売。
宮ぷーこころの架橋プロジェクト メルマガ登録:
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同プロジェクトから生まれたHP:http://ohanashi-daisuki.com/index.html
山元加津子さんHP「たんぽぽの仲間たち」:http://www005.upp.so-net.ne.jp/kakko/