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みんなでひとつ命を生きていく〜宮ぷーこころの架橋プロジェクトから〜

このページは、特別支援学校教諭で、作家でもある「かっこちゃん」こと山元加津子さんによるコラムページです。
かっこちゃんは障害を持った子どもたちと、かけがえのない一人の友達として触れ合い続けています。その様子は『1/4の奇跡』という映画にもなりました。このコラムでは、かっこちゃんの同僚で、2009年2月に突然脳幹出血で倒れ、奇跡的に命をつないだ宮田俊也さん(通称・宮ぷー)との触れ合いの様子を中心にお届けします。

2012.09.20(第22回)
白雪姫プロジェクト1000人集会。

 今、私が、心の底からわき上がるようにしたいと感じてしていることがあります。
 それが「白雪姫プロジェクト」( http://shirayukihime-project.net/ )です。
 病気や事故のために、意識が無く、回復の見込みが少ないと思われてきた「植物状態」と言われる人たちが世界に何十万人もいるといわれています。その方たちは、これまで、ベッドで長い間寝たままの生活を送ってこられました。 けれど、意識を取り戻し、食べる、思いを伝えるなどの生活行動を取り戻すための方法があることがわかってきました。
 白雪姫プロジェクトは、回復の方法や、それにつながる意思伝達の方法、口から食事をとること、リハビリの方法、介護の方法などの情報を集め広めるプロジェクトです。
 私たちは、「誰もが思いを持っていて、回復する可能性がある」ということが当たり前になっていく世界をめざしています。白雪姫は王子さまの愛によって、目覚めることができました。白雪姫プロジェクトはそんな愛でいっぱいのプロジェクトです。でも、そのプロジェクトは、植物状態と言われる方だけのものではないのです。誰もが思いがあることや、人は大きな回復の力を持っていることや、少しの力でできる介護法などたくさんの情報を伝え合うプロジェクトでもあります。

 そのプロジェクトの大きな大会が12月8日に総社市で行われるのです。
http://shirayukihime-project.net/20121208_okayama1000.html

 そこでは、ずっと植物状態と言われている人をどんどん回復させておられる紙屋克子先生の講演会と私の講演会、それに、もうひとつ、ここにも何度も登場している宮ぷーの映画「僕のうしろに道はできる」の35分バージョンの日本初上映会があるのです。
 宮ぷーと思いを伝え合いたいということは、倒れてからすぐに考えたことでした。けれども、思いはあっても、身体のどこも動かすことのできない宮ぷーにとって、それはとても難しいことでした。そのような状態をロックドシンドローム(閉じ込め症候群)と言われるそうですが、そんな状態がずっと続いていました。脳波スイッチもためしてみたのですが、それもなかなかうまくいかなくて、いったいどうしたらいいだろうと思っていたときに、来てくださったのが、國學院大學の柴田保之先生でした。
 先生は、将来教員になるための大学生に授業をされておられるのですが、先生はずっととても重い障害のあるお子さんとコミュニケーションをとることにずっと取り組んでこられた方です。その柴田先生と奥様のななえ先生が宮ぷーが倒れて半年たったころ、宮ぷーの病室に来てくださったのです。先生はすごい速さで宮ぷーの手を振りながら、「あかさたなと言い続けられました。そして、先生がおっしゃるには、宮ぷーの手がほんの少し重くなって、それで思いを知ることができるとのことで、すらすらと宮ぷーの思いを先生は口にされました。私はそれまでさんざん、宮ぷーの思いを知ろうとしてきたので、初めてこられた先生がそんなふうに宮ぷーの思いが分かってしまわれるのが不思議でなりませんでした。
 けれど、信じざるを得ない点が三つありました。
 第一は、先生とななえ先生のお人柄がものすごくよくて、それはきっとどなたもそう思われると思うのですが、嘘などつく必要もなく、また嘘をつけるような方ではないと一目でわかったからです。
 第二は、そのころ、まだ目を閉じたりうとうとしたりして、それほど集中力が続かなかった宮ぷーが、すがるように先生を見つめ、朝から夜までいてくださった先生から目を離すことがなかったのです。
 そして第三は、妹さんや宮ぷーでしか知り得ないようなことを先生はどんどん口にされたことでした。自分にできないことを人はなかなか信じられないけれど、でも、そんな方法で先生が伝えてくださった言葉は宮ぷーの思いだと言うことはまぎれもない真実でした。
 先生は、これまでも本当に多くの方のお子さんの思いを伝えてこられました。
 9月に鴻巣というところで、私の講演会がありました。そのとき、ストレッチャーにのっておられるお子さんとお母さんとおねえさんが来てくださっていることに気がつきました。そのお子さんはあとでわかったのですが、たけちゃんというお名前で、酸素の機械もストレッチャーに積んでおられるのが見えました。たけちゃんはキラキラした目でずっと私の話をききのがすまいという感じで聞いてくださっていることがわかりました。そして、私の話が柴田先生の話になったときに、顔の様子がさらに輝いているのがわかったのです。たけちゃんは柴田先生を知っているのだろうかと思いました。そして、お母さんとおねえちゃんがサインの列に並んでくださったときに、「柴田先生をご存じなんですか?」とお尋ねしたところ「なぜわかったのですか?」とお母さんはとても驚いておられたのです。やはり、たけちゃんは身体が動かなくても、全身でそのことを伝えてくれていたんだなあと思いました。お母さんからメールをいただきました。

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 かっこちゃん、こんにちは。鴻巣の講演会でお会いした尊晴(たけはる)の母です。私はかっこちゃんのことも柴田先生のことも今年の春に知ったばかりのビギナーなのですが、ホームページやブログを拝見しだしてから、「会いたい。つながりたい」という気持ちが、すごい勢いでわきあがってしまって、止まらないでいました。でもまさかこんなに早く、かっこちゃんにも柴田先生にもお目にかかれるなんて思ってもいなくて、この夏は特別で、忘れられない夏になりました。
 尊晴のことを少し書かせてください。尊晴は生まれつき全身の筋肉が少なく弱くて、手も足もわずかに動かすことができる程度でした。呼吸に必要な筋肉も少なくて、たびたび肺に痰がたまって、肺炎を繰り返しました。呼吸苦を少しでもなくしてあげたいと気管切開の手術を決断するときには、「手足を思うように動かせないのに、私達親が尊晴の声までも取り上げてしまったんだ」という、大きな大きな十字架を一生背負って生きていく覚悟でした。生まれてからずっと苦しみに顔をゆがめていた尊晴でしたが、気管切開術をしてからほどなくして、笑顔をいっぱい見せてくれるようになり、表情で体全体で思いを伝えてくるようになりました。
 ところが、4歳の誕生日の直前、突然のショックから心停止が起きてしまいました。30分以上心拍が止まってしまったダメージは大きく、一命はとりとめたものの、わずかな体の動きも表情も失ってしまいました。尊晴を再び家に連れて帰ることができたのは発症後2ヵ月がたってからでしたが、心拍が突然200を越したり、60をきったりと不安定な状況もあり、発症前と同じ生活が戻ってきたわけではありませんでした。
 退院後10ヵ月が過ぎたころ、肺炎を起こして再入院になってしまいましたが、これまでの経緯もあり、症状が軽快してもなかなか退院の許可がおりませんでした。大好きなお姉ちゃんに会えなくて、お互いがとてもさびしい思いをしているのは、声を発しなくても、表情が乏しくても、そばにいて痛いほど強く感じました。渋る医師に懇願して、1ヵ月後退院したのですが、自宅に帰ってきたその日、尊晴が私の顔をしっかりと見つめてくれて、そしてにっこりと笑ってくれたのです。約1年ぶりに、心停止前と変わらない笑顔で。
 「やっぱりおうちが一番。ありがとう、お母さん。」そんな声が聞こえました。

 尊晴は私が自分自身を責める時も、いつもその笑顔で私を救ってくれます。
 「お母さん、ぼく大丈夫だよ」と全身で伝えてくれます。時として、尊晴の伝える力はとても強くなります。
 就学の時もそうでした。「お姉ちゃんと同じ学校に行きたい。地域の子と一緒に学び育ちたい」と強く伝えてくる尊晴の思いを、何よりも尊重しようと思いました。地域の子どもたちとの交流をとおして、尊晴は再び表情を取り戻していきました。
 「伝えたい」気持ちも以前に増して強くなり、口の形で返事したり、手足もまた少しずつ動かせるようになってきました。しかし周囲にはいわゆる重複障害児といわれるような子と、コミュニケーションをどうとったらいいかわからない人ばかりでした。「尊晴がこんなに思いを伝えようとしているのに、どうしたらよいのだろうと」と途方に暮れているときに、地域でいつも私達親子を支えてくださる先輩が「この間、こんな講習会に行ってきたんだけど」と見せていただいた資料に載っていたのが柴田先生でした。そして、同時期に「ほのさんのバラ色在宅生活」に白雪姫プロジェクトのバナーが貼り付けてあって、かっこちゃんの存在を知ったのです。直接尊晴に触れてくださって、思いを伝えてくださる柴田先生ご夫妻と、いろんな方法を白雪姫で教えてくださっているかっこちゃんのおかげで、今はどんな方法で尊晴と会話できるようになるか、希望に満ち溢れています。

 前置きが長くなってしまいました。講演会の会場に入っていらしたときから、「かっこちゃんに会えた」と嬉しくて、涙がじわじわ滲んできましたが、お話しが始まると、その言葉一つ一つに自分の細胞が反応しているような感覚、心にかっこちゃんの言葉が素直に入っていく感じで、何度も何度も涙がこぼれました。かっこちゃんがこれまで出会ってこられた方たちもまた、素敵な方たちばかりなのですね。
 残念ながら、尊晴のように常に酸素が必要で、痰の吸引や栄養の注入など医療的ケアが必要な子が、地域で学校生活を送ることは、まだまだ当たり前のことではありません。学校や教育委員会の先生と意見がぶつかってしまうことも、少なくありません。でも、かっこちゃんの中にいる雪絵ちゃんに出会って、雪絵ちゃんの「良かったね」を聞いて、自分のことに置き換えてみたら、とっても自然に周りへの感謝の気持ちが膨らみました。たくさんの人に、かっこちゃんのこと、白雪姫のこと、白雪姫とつながっている素敵な方達のことを伝えたいって思いました。かっこちゃん、出会えて本当に本当に嬉しいです。ありがとう。私もやっぱり、かっこちゃんが特別にスペシャルに大好きです。必ず、また、会いに行きますね。
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 柴田先生は二か月に一度ほど、重い障害をもっておられるみなさんと一緒に語り合う会、「きんこんの会」という会を主催されていて、たくさんの子どもさんの思いを子どもさんのあいだを飛び回りながら、通訳して会をすすめておられるのです。この会はどなたでも参加することができるということで、たけちゃんやお母さんは、きんこんの会の7月に出席されていて、そのときのたけちゃんの文章があります。

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こにしたけはる
 僕の名前はこにしたけはるですが、最初に先生と会ったのはついこの間のことなので、まだまだ僕も先生も初めてに近いのですが、こうして、まさかこんな大勢のひとの前で僕も話をすることになるとは思わなかったので、とても驚いていますが、このあいだから僕の担任の先生がいっしょうけんめい僕の気持ちを聞き取ろうとしてくれるようになったので、僕の学校生活はずいぶん変わりましたが、まだまだ先生以外の先生は意味がわからないようなので、こうして僕がこんな場所で話している事だって、驚くばかりだと思いますが、今日は大勢の先輩達の前で僕もいろいろ話を聞かせてほしいと思います。僕はまだ小学生なので、いろいろなことを知りませんし、僕は地域の学校の特別支援学級に通っているので、養護学校という場所のことも知らないし、そういう意味ではいろいろ仲間のことを知らないのですが、その場合に地域で生きていくことの大切さは身をもって経験していますから、その話はできると思いますが、あとは先輩達の話を一生懸命聞かせていただいて、僕もこれからどうやって生きていったらいいのかということを、この場でいろいろ考えられたらいいと思うのでよろしくお願いします。
 それにしても先生の話の速さにはきっと驚かれると思いますが、驚いているのは僕が一番です。僕は最初先生の家で先生に会ったのですが、そのときはすべてパソコンだったので、これよりもずっとゆっくりだったのですが、それでもすごい速さだったので驚いたのですが、こういうふうに話ができるのは、あのとき少ししか教えてもらえなかったので、まるで僕がそのまま話していると同じなので、これだったら僕はもう言葉の障害者ではないと、いまつくづく感じています。こうやって当たり前にしゃべれれば、僕もいつも学校の中でもほかの子ども達といっしょに勉強もできるし、いろいろ話すこともできるのだろうけど、今はまだこういうやり方が出来る人は限られているみたいなので、まだまだこれから先のことだと思いますが、僕はもしかしたら、みなさんよりずっと歳が若いので、皆さんの苦労のおかげでこんなふうなことになれているのかと思うと感謝の気持でいっぱいです。
 少し話が変わってしまったので、これで自己紹介を終わりにしたいと思います。今日僕はお母さんと担任の先生と来ていますのでよろしくお願いします。先生は、僕のことを最初からわかってくれていたので、柴田先生が聞き取った文章を見せても全く驚かないどころか、やっと気持が聞けてよかったわと言ってくれた先生なので、珍しいみたいな気がしますが、僕もそういう先生にはあまり会ったことがないのでとても感激しました。今日はその先生と一緒に来れたのでとてもうれしかったです。僕のいるところは、埼玉県の北の方の市になるのですが、近くに森林公園というのがあるので、それが有名ですが、僕の家はその近くにありますが、今日は電車をたくさん乗り継いできたので、僕もさすがに疲れましたが、今日はこの会に来るのがとても楽しみだったので、先生が無理をしないでも僕の方から行くよと言ってくれたのですが、今日は僕も来たいと思ったので来ました。よろしくお願いします。以上です。
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 担任の先生が、たけちゃんやお母さんの彩ちゃんと一緒に参加されていることも、本当になんて素敵なのだろうと思いました。担任をしていると、思いを知りたいという気持ちはすごく強くなると思うのです。けれど、「こんなに重い障害を持っている子どもたちはたぶんむずかしいことはわからないだろう」という思い込みというか常識が社会にはあります。その社会の中で生きている私たちは、そのがちがちに固まっている常識を打ち破ることがなかなかできずにいます。本当は、子どもたちと一緒に勉強していく教員こそが、まずこのことを知ってかわっていかなくてはならないなあと教員として、自分を振り返って思います。そして、やっぱり自分もそんなふうにできたらなあとやっぱり思うのです。

 本当に素晴らしいことだと思います。たけちゃんだけでなく、どんなに重い障害のあるお子さんも誰もが思いがあるということを、先生はおっしゃいます。「言葉のある人、ない人というふうに線をひいていたことがそもそも間違いだったのだと思いました」と言われました。
 白雪姫プロジェクトではそのことも、どんどん伝えています。まず、誰もが思いがあると、そばにいる人が心から信じられる、それが一般の常識になることから初めていきたいのです。
 ぜひぜひ、白雪姫プロジェクトのホームページを見ていただきたいです。
http://shirayukihime-project.net/ そして、12月8日の講演会も多くの方にきていただきたいなあと思っています。


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http://ohanashi-daisuki.com/info/story.html

手をつなげば、あたたかい。
著書『手をつなげば、あたたかい。』

・今度新しい本を出しました。こころがあたたまる本です。
『手をつなげば、あたたかい。』(サンマーク出版 山元加津子著 1,470円)



★ 山元加津子と仲間たちとのおかしな毎日を綴る
いちじくりんHP:http://itijikurin.blog65.fc2.com/


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宮ぷーが倒れた

Profile:山元 加津子(やまもと かつこ 愛称:かっこちゃん) 

宮ぷー(右)と一緒に。

1957年 金沢市生まれ。エッセイスト。愛称かっこちゃん。石川県特別支援学校教諭。障害を持った子どもたちと、教師と生徒という関係ではなく、かけがえのない一人の友達としてふれあいを続けている。分け隔てなく、ありのままに受け入れる姿勢は、子どもたちの個性や長所を素晴らしく引き出している。そんな子どもたちの素敵さを多くの人に知ってもらおうと、教師をしながら国内外での講演・著作活動など多方面に活躍中。教師、主婦、作家、母親という4役を自然体でこなし、まわりの人に優しく慈しみをもって接する姿は、多くの人の感動を読んでいる。著書に『本当のことだから』『魔女・モナの物語』(両方とも三五館)、『きいちゃん』(アリス館)、『心の痛みを受けとめること』(PHPエディターズグループ)、『満月をきれいと僕は言えるぞ』(宮田俊也・山元加津子共著 三五館)などがある。2011年7月に新刊『ありがとうの花』(三五館)、2011年11月に『手をつなげば、あたたかい。』(サンマーク出版)を発売。

宮ぷーこころの架橋プロジェクト メルマガ登録:  http://www.mag2.com/m/0001012961.html
同プロジェクトから生まれたHP:http://ohanashi-daisuki.com/index.html
山元加津子さんHP「たんぽぽの仲間たち」:http://www005.upp.so-net.ne.jp/kakko/

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