みんなでひとつ命を生きていく〜宮ぷーこころの架橋プロジェクトから〜
このページは、特別支援学校教諭で、作家でもある「かっこちゃん」こと山元加津子さんによるコラムページです。
かっこちゃんは障害を持った子どもたちと、かけがえのない一人の友達として触れ合い続けています。その様子は『1/4の奇跡』という映画にもなりました。このコラムでは、かっこちゃんの同僚で、2009年2月に突然脳幹出血で倒れ、奇跡的に命をつないだ宮田俊也さん(通称・宮ぷー)との触れ合いの様子を中心にお届けします。
ある日、学校へ行ったら、一時間目が始まる少し前に、校務員さんをしているさとみちゃんが「かっこちゃんちょっと来てみて」と温室へ呼んでくれました。温室のやしの木に蜂が巣を作り出していたのです。
「怖いから壊したいけど、観察したい」というさとみちゃん。じゃあ、あとでどうするか決めようかと言って一時間目が終わって、温室に行ったら、びーっくり。そこにすばらしいとっくりの形の巣ができていたのです。まるでろくろを使って作ったような見事な見事なとっくりの形の巣でした。「すごい職人。あっという間に作ったよ」と観察してたさとみちゃんが教えてくれました。わあ、観たかったなあ。二時間目の理科で、みなちゃんとパソコンでトックリバチのことを調べたのです。そしたらびっくりしたことがいっぱいありました。
トックリバチの巣は、自分のためでなくて、子供のために作る。頭より大きい乾いた土を持ってきて、唾液でこねて、それで、漆喰の壁の材料みたいなものを作って、自分の体をコンパスにして(基準にして)見事なとっくりの形の巣を作るということ。それから、卵をたった一個だけ産んで、そこへ、蛾の幼虫に毒をさして、生きたまま巣の中にいっぱい入れて、ふたをするということ。
なぜとっくりの口が本当にお酒を入れるとっくりの口の形と同じかというと、とっくりの形がロートみたいになっていて、巣の中に大きな幼虫を入れるときに、やわらかい幼虫を押し込むことができるし、巣の中にアリが入ろうとしても、アリ返しみたいになって、虫が入らずにすむから。
本当にすごい知識ですが、でも、驚くべきことは、とっくり蜂の子供は蛾の幼虫を食べて大人になるので、子供とお母さんは会っていないのです。だから、こんなに素敵な見事なとっくりの形の巣を作る方法は誰にも教えてもらえないのです。それは遺伝子の中に入っている。教わらなくてもできる。ていねいに巣を作って、生まれてくる子供のために、いっぱい蛾の幼虫を持ってきて、入れて、ふたをして、アリまで入らないようにしてあるのは、細胞の遺伝子の中にしっかりとあるあふれるような気持ち、そして愛なのだと思います。私はそのときに、神様がなにもかもの細胞に、すべて用意してくれた、大好きはうれしいし、子供や、相手を愛したいという遺伝子なんだなあと思ったら、すっごくうれしくなりました。
朝、巣を作ったばかりなのに、日中にはせっせと蛾の幼虫を蜂は運んでいました。大きな青虫も上手に入れて(実は入れるところは残念ながら観れなかったのです。でも、中に白い幼虫、青い幼虫が、入っているのが見えました)その幼虫も必死なんだと思います。
そのあと見に行ったら、体を半分出していました。そして、金曜日の朝、学校へ行って一番に温室へ行ったら、私はあーって声をあげました。トックリバチさんの左官屋さんのお仕事でもうきれいに、とっくりのふたができていたから。早起きで本当に働き者です。このトックリの中にはいったい幼虫が何匹入っているのかな? 狩をされた幼虫はかわいそうかもしれないけれど、私は、冷たいかもしれないけれど、「しかたがないし、それでいいんだ」って思いました。お母さん蜂の、細胞の遺伝子の中から沸き起こってくる、子供への愛に、私はすごくすごく心が揺さぶられました。
トックリバチは、生まれる前のたった一個の受精卵だったときから、トックリをつくるときには、トックリを作るにはどんな土を使ったらいいかとか、まだ出会ったことがなくても、出会ったときに、これは、巣に入れたらいい幼虫なのか、そうではないのかをみんな知っているのです。
トックリバチがわき上がるようにしたくなるその行動の基になっていることや知識は、最初はたった一個の受精卵の中にありました。その受精卵が分裂して、いつか大人のトックリバチになります。トックリバチの脳は、受精卵のDNAに書かれた情報とつながる方法を持っているのだと思います。
昆虫も、そして動物も、ほとんどは、こんなふうに無意識の領域からわきあがってくる思いで行動しているのだと思います。
十年以上前にアフリカに行ったことがあります。そのときにガイドさんが教えてくださったことに驚きました。すべての植物は、動物や昆虫によって、食べわけが行われているけれど、葉っぱの先、葉っぱの根元、細い茎、太い茎など、ひとつの種類の植物の中でも、すべて食べわけが行われているというのです。モンシロチョウが、キャベツや菜の花に卵をうみつけ、青虫がそれを食べ、アゲハ蝶はミカンや山椒の木に卵を産み付けるように、わき上がるように、そこに卵を産み付けることは、すべての命がこの先も、ちゃんとうまく続いていけるために必要なことなのですね。わき上がる思いが、まだたった一つの受精卵のときにあった遺伝子の中に書き込まれたものであるならば、この宇宙がまるごとで、すべてうまくいくように、書かれているようにも思えます。わたしは、それは、みんなでひとつの命を生きているということなのかなと思うのです。
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宮ぷー(右)と一緒に。
1957年 金沢市生まれ。エッセイスト。愛称かっこちゃん。石川県特別支援学校教諭。障害を持った子どもたちと、教師と生徒という関係ではなく、かけがえのない一人の友達としてふれあいを続けている。分け隔てなく、ありのままに受け入れる姿勢は、子どもたちの個性や長所を素晴らしく引き出している。そんな子どもたちの素敵さを多くの人に知ってもらおうと、教師をしながら国内外での講演・著作活動など多方面に活躍中。教師、主婦、作家、母親という4役を自然体でこなし、まわりの人に優しく慈しみをもって接する姿は、多くの人の感動を読んでいる。著書に『本当のことだから』、『魔女・モナの物語』(両方とも三五館)、『きいちゃん』(アリス館)、『心の痛みを受けとめること』(PHPエディターズグループ)、『満月をきれいと僕は言えるぞ』(宮田俊也・山元加津子共著 三五館)などがある。2011年7月に新刊『ありがとうの花』(三五館)、2011年11月に『手をつなげば、あたたかい。』(サンマーク出版)を発売。
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山元加津子さんHP「たんぽぽの仲間たち」:http://www005.upp.so-net.ne.jp/kakko/