リレーでつなぐ"ハート"の話

このページは、リレー形式でそれぞれの人に“愛”をテーマに、恋愛や家族愛、人間愛、パートナーシップ、コミュニケーション、大切な人への想い…などを自由に語っていただくページです。それぞれの方に半月に１回、計３回ずつご執筆いただき、その方から次にご執筆いただける方を紹介していただく形をとっています。順々に人と人とのつながりの輪が広がっていきます。

2013.06.15（第56回）

♪今回の執筆者♪
室井三紀さん（２回目）
（室井さんの詳しいプロフィールはページ下にあります。）

義経が好き

判官びいきと言う言葉があります。
弱い者や、薄幸の者に同情する、
という意味だそうですが、
判官とは、義経のこと。
そう、源義経のことです。

琵琶の弾き語りでは、
まずはじめに平家物語の古典の語りを習います。
語りがあり琵琶の手が入り、また語りという内容です。
平家物語というのは、
８００年前におこった戦いのこと。
源氏と平家が戦い、源氏が勝って、
鎌倉に幕府を建てた戦いです。

「祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理を現す。」

これは平家物語の冒頭で有名な部分ですが
全てのものは移り変わるということを
言っているようです。
平家の一族は都で栄え、
平家にあらずんば人にあらず、
とまで言い放っていました、しかし。

「奢れるものも久しからず
ただ春の夜の夢のごとし。」

奢り高ぶった平家は
春の夜の夢のごとく、
源氏の兵に都を追われていきます。
平家一族は船で、九州へ、四国へと放浪するのです。
この平家一族を都から追いやった人、それが、
源義経。

小柄ながら戦いに秀でたリーダーでした。
この源義経が幾度かの戦いのすえ、
壇ノ浦というところで、
平家一族を滅ぼします。
平家の人々は「今はこれまで」と壇ノ浦の海に
身を投げていくのです。

しかし、こんなに強いヒーロー義経が
どうして、弱者なのか。

それは、義経が、その後、平家一族と同じように
都を追われ、殺されるという運命をたどるからです。
それも、兄、源頼朝に殺されるのです。
兄のために必死で戦った義経なのに、
その兄、頼朝に殺されるなんて！
頼朝は強い義経を恐れたのでした。
今度は自分がやられるのではないかと。

神奈川県の江の島と鎌倉の間、
万福寺というお寺があります。
義経はその万福寺で頼朝に「会ってくれ」と
書状を書きました。そして、待ったのです、その場所で。
しかし、鎌倉に入ることは許されなかった。

「猛きものもついには滅びぬ
　ひとえに風の前の塵に同じ」

平家を滅ぼした義経。
その義経を討った頼朝。
戦いは戦いを生んでいく、
しかし所詮、風の前の塵に同じ、と
平家物語は言います。

勝つものも、戦い続ける限り、滅びからは免れない。
一族で、身を投げ、壇ノ浦の海に散った平家。
そして、義経。

日本人の血には、この滅びていくものへの愛着が
流れているのです。

そう、これが判官びいき！

平家物語の語りを学んでよかったと思うことは、
勝つものと負けるものをともに語ることが出来るということかもしれません。
そして、諸行無常ということを
いつも思っている、ということ。

義経は愛する人に愛してもらえなかった。
それは、何より哀しいことだと思います。
戦いに負けることよりずっと。
人の心は、昔も今も変わらないものなのですね。

武士（もののふ）の有為転変（ういてんぺん）を観ずれば
夢まぼろしの如くにて、夢よりもなおはかなけれ。

ご案内
6月30日（日曜日）
1時半より
松戸市みのり台市民センターホールにて
室井琵琶教室発表会
入場無料。
お問い合わせ　演劇舎猫の事務所　
電話０４７－３２８－８１７５

Profile:室井三紀（むろい　みき）

室井三紀さん

演劇集団円演技研究所終了後、演劇舎猫の事務所にて演劇活動。筑前琵琶を田原順子氏に師事。平家物語などの古典とともに民話や様々な物語、人物などを演劇的に創作し各地でコンサート活動を行う、馬頭琴、乙女文楽、義太夫、語り芝居とのコラボレーションなどにも参加。オランダワールドフェスティバル「ＢＵＮＲＡＫＵ」出演。琵琶の音色と言葉の織りなす新たな世界へと創作を続けている。
演劇舎猫の事務所ＨＰ　http://www5d.biglobe.ne.jp/~neko-jim/