リレーでつなぐ"ハート"の話

このページは、リレー形式でそれぞれの人に“愛”をテーマに、恋愛や家族愛、人間愛、パートナーシップ、コミュニケーション、大切な人への想い…などを自由に語っていただくページです。それぞれの方に半月に１回、計３回ずつご執筆いただき、その方から次にご執筆いただける方を紹介していただく形をとっています。順々に人と人とのつながりの輪が広がっていきます。

2018.06.01（第163回）

♪今回の執筆者♪
藤部恭代さん（１回目）
藤部恭代さんの詳しいプロフィールはページ下にあります。）

前々回の執筆者　村上正さんから藤部恭代さんに対するメッセージ

（※今回は特別、前々回のご執筆者の村上正さんからの再度のご紹介になります。）

今回の執筆者、藤部恭代さんは大学で洋画を学ばれ、母校の非常勤講師をされています。
現在はアーティストで絵画を描いておられ、京都文化博物館や上野の森美術館などにも出展されるようなバイタリティーのある方のようです。と言うのもバトンを受け取って頂く方を探していたところ、私が訪ねた「そばカフェ・さらざん」で偶然お会いした方なんです。それも、ご友人と楽しいお食事を終えられ帰られる間際のことでした。入ると出るの僅かな時間でこのコラム「愛」が受け継がれていく、これもこのコラムが意図とするひとつではないでしょうか。ご友人の川勝雪貴女史は京都北部の山間部「花脊」に居住されており、蕎麦栽培や地域活性化活動をされていると聞きます。今回、寄稿をして頂く藤部女史に出会ったお陰で、私達の中で小さなコラムの「愛」が育ちそうです。

記：村上　正

アートを愛づる

　はじめまして。藤部恭代と申します。私はアーティストで、油絵の具を用いて絵を描いています。アーティストが愛について語る……このことについて読者の皆様は、いったいどのように感じられるのでしょうか。私は逆にお伺いしてみたいような気もします。
　私はアートそのものが、非常に愛にあふれているように感じています。あくまで私というアーティストの側面ではありますが、ここでは少し自由に記させて頂きたいと思っております。拙い文章ではありますが、どうぞ最後までお付き合い頂ければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。

　私は、このお話を頂いた際、まず一番初めに浮かんだ言葉は「愛でる」という言葉でした。私は、ものを創るという行為は、何かを表象する／伝える行為であり、とても能動的な割合が高い表現手段だと思っています。誰かに強いられるものではなく、生きる手段としてでもなく、自ら望みこの世界の中にいます。私は、アートをとても愛しているのだと思います。どのように、その気持ちを表現して良いか考えたとき、そこに自己愛に似たものと、愛でるという言葉が浮かびました。日々の生活の中で、感動する心や気づき、本や知人から得た新しい知識、喜びや悲しみも含めて、世界情勢に見る大きな変動や主張に、私たちの世界は普遍的なものと、革新的なものとの大きな二律背反の流れの中で、自分はどうありたいか考えさせてくれます。そして、そこから作品作りへの第一歩が始まります。私は、その一つ一つの過程を大切にしています。
　例えば、私が線を描くときの気持ちは、慈しむという感情にも少し似ています。私はアナログな人間で、自身の手で描くことが好きです。身体の動きというものは、完全にオートマチックには動きません。一瞬の呼吸や心の動きが、身体を左右します。その一瞬を大切に、一呼吸や心を、その時に表現したい感情へと導くことで、やっと思い通りの線が表現できるような気がします。単純明快な線ほど自身が反映してしまい、難しいものだと感じます。心が落ち着いていたら、落ち着いた線。爽快であれば爽快な線。心が荒ぶれば、荒ぶれた線。身体を通すことで、線そのものに生命が宿るのかもしれません。

　愛というテーマは、人間根本の非常に壮大なテーマで、私自身が表現者として、一番大切にしていることなのかもしれないと、お題を頂くことで気づかされました。出来上がった作品は、我が子のごとくかわいいものです。大切に育て上げ、そして、必ず手放していくものになるように、作り上げていきます。ただ、制作過程において、時にその愛情が、執着と捉えられるかもしれません。それほどまでに、のめり込んでいくことも多々あります。執着という言葉には、ネガティブな印象を受けることが多いと思いますが、とても大切なことだと思っています。何かに囚われ、こだわり、それを得ようとする執着心こそが、創作し続ける動機となり得るのではないでしょうか。たとえば花を描くとき、たくさんある同種の花の中から、自分の最も気に入った形態の花を選びます。その花を、丁寧に観察し写実的ではない表現であったとしても、それをどのように形にするか、花びらの一つ一つや、細部の形、花の持つ雰囲気や匂いや色を丁寧に観て、そこから多くのインスピレーションを受けます。また、別の描き方をするときは、実際に描く対象を見ず、記憶や知識の中から描き出したいイメージを、自分が見たいものとして形にします。制作時のコンセプトや手法が、どのタイミングで派生するかは、ケースバイケースですが、対象を知り創作することは、そのものを愛でることだと感じます。
　このように考えてみると、私たちの身の回りには、ものを見ることの大切さが、既に日常の中に根付いているように感じられます。私にとって表現手段が視覚美術であることが大きいのですが、インターネットなど視覚的な情報の流通の速さにより、一層視覚中心の思想が広がっているように感じます。現実もバーチャルも垣根なく、自然と美しいものを見て、そこに視覚的な追体験をする機会が増えていると思います。このような視覚が重視された世界は、ものを見る強さというものが、絵画とは別次元で強くなっており、それがまた反映する可能性があり、とても面白いことだなと感じています。実際に触れずとも、目で見て感じたものを愛ずる心情を、多くの方が体験する機会が増え、観ることの重要性や必要性を問い直すチャンスだと感じています。みなさんも様々なものを目で愛する機会が多いのではないでしょうか。絵画もバーチャルリアリティの世界も共通するのは二次元的な視覚によるものです。是非垣根なく、アートを身近に愛でて欲しいと思います。

Profile:藤部恭代（ふじべ　やすよ）

藤部恭代さん

京都造形芸術大学院修了
2018 京都新鋭選抜展2018 Kyoto art in tomorrow / 京都文化博物館
2017 Collage Cubism la biennale de Yocchan　/ ORIE art gallery / 東京
2016 VOCA　/上野の森美術館　東京
2010　ARABESQUE 　Yasuyo Fujibe solo exhibition / Yoshiaki Inoue Gallery 大阪
2008　群馬青年ビエンナーレ2008 / 群馬県立近代美術館　
2006　第20回ホルベイン・スカラシップ / HOLBEIN