リレーでつなぐ"ハート"の話

このページは、リレー形式でそれぞれの人に“愛”をテーマに、恋愛や家族愛、人間愛、パートナーシップ、コミュニケーション、大切な人への想い…などを自由に語っていただくページです。 それぞれの方に半月に１回、計３回ずつご執筆いただき、その方から次にご執筆いただける方を紹介していただく形をとっています。順々に人と人とのつながりの輪が広がっていきます。

私は幼い頃から人の顔色を見る子でした。引っ込み思案で怖がりで、公園で並んでいて抜かされても何も言えずに譲ってしまうような気の小ささに、母は心配して気をもんだといいます。

一人っ子でしたが、幼心にワガママは言ってはいけない、ほめられることで自分は認めてもらえるという認識が確かにあったことを覚えています。
誰といてもずっと相手に合わせてきました。気まずくなったら、自分が悪くなくても丸く収めようとすぐにあやまりました。
長所には、「協調性がある」と書きました。

私はとても疲れていました。
私の中に、私らしさは存在しなかったのです。当然のことながら、自分が大嫌いでした。

そんな私に子どもが生まれました。
心の準備も何もないままに、お母さんになりました。
上の娘はとても奔放で、何もかもが「なすがまま」。
年子状態で生まれた下の息子はとにかくマイペーーーース。
二人とも８、９ヶ月で早々と歩き出し、振り向いたらもういない。
たった二年の間に、我が家は柵だらけ。私はなりふり構わず、怪獣二頭を相手に一人で立ち向かうことになったのです。

何時までにコレをすませて、二人を寝かせたらアレをやろう。
そして、幼児期までに規則正しい生活を身につけさせて、おむつは布でがんばって早めに外して、好き嫌いのないように今からどんな食材も食べさせて。
んなアホな（笑）。

でもでも真剣でした。だってね。
「私はいいお母さんでいなければならない」
「さすが幼稚園の先生だったねって言われなければならない」
「のびのび育てて、多少のやんちゃをしてもニコニコ大らかに笑ってるお母さんになる！」

今となっては笑えます。でも当時はほんとに一人で躍起になってがんばっていたのです。
何故なら私は
“自分に自信がなかったから”

だけど相手は怪獣二頭！思い通りになるはずがありません。
私は初めて自分の努力だけではどうにもならないことに振り回されました。

こんなにがんばってるのにいいお母さんになれない。
気持ちに余裕がなくなり、苛立ちがつのります。
家にこもっていると、いつか虐待してしまうんじゃないか……。そんな恐怖すらありました。
私はなるべく家に人を招いて一人にならないようにしました。
そうすれば自分の感情にストップをかけて、その時間だけでも普通に子どもたちに接しようと笑顔でいる努力をすることができたから。

ところが下の息子の１歳半検診で、自分が子育てにおいてこのように努力していることを保健師さんに告げた時、それまでの全てを覆す言葉に出会います。

「お母さん、それは絶対やってはダメよ」

え。

「子どもに二重のメッセージを送ってはいけないの。イライラした気持ちを抑えて表面上笑っていたら、子どもは敏感にそれを感じ取って、ママがほんとは何を考えているのか混乱してしまう。とても不安になって【顔色を見る子】になってしまうの。

イライラしてる時は、素直に、ママ今怒ってるんだよ！近づかない方がいいよ！くらいのことを伝えたらいい。
子どもが初めての理不尽を覚えるのは母親からなんだからね（笑）」

目からウロコ、へなへなと身体の力が抜けた瞬間でした。
そして今まさにこれを書きながらもう一つ気付いたことが。

この文章の冒頭「私は幼い頃から人の【顔色を見る子】でした」←！！！

私の母は、本当の感情を出さない人でした。それは母を責めているのではなく、私を不安にさせないために辛いことも悲しいことも自分の胸の内に秘め、いつも穏やかにいてくれたからです。
もちろん口うるさいし細かいこともたくさん言いました。
でもその裏でもっと大きな感情や抱えている不安をずっと見せずにいてくれたのです。

母ががんばっていることを幼い私は何となく感じ取っていたのでしょうか。
私もまた母を悲しませてはいけない、他人様からもいい子だと褒めてもらって母を安心させたいという思いがあったのだと思います。

とにかくこの保健師さんの言葉で私はガラリと変わりました。
しんどい時は、ママ疲れてるからちょっと寝かせてな。
苛立つ時は、ママほんまにムカついてるからこれ以上怒らさんときや！
面白い時は、あんたらほんまにアホちゃうか！！←褒め言葉（笑）

子どもに等身大でぶつかることで、ママはこんな人間なんです、未熟なんです、すみませんと宣言し、それを受け入れてくれる子どもたちのこともまた、心から信頼できるようになりました。
お互いもたれ合いっこで一緒に毎日成長していきましょうよという感覚。今までどれだけ支えられてきたでしょう。

仕事が変わってなかなか慣れずにもがいていた時。
「お仕事楽しい？　失敗もあるかもだけどまだ始めたばかりなんだから仕方ないよ」
と息子はいつも気にかけてくれて、娘はそっと応援のお手紙を書いてくれました。

私が全てに疲れ、心を壊してしまった時。
思うように身体も動かず寝込んだままの自分に嫌気がさし、もうこのまま目覚めなければいいとまで追い詰められていた一番辛い頃のある日。
まだ保育園に通っていた幼い二人は泣きつくでも責めるでもなく、冷蔵庫にあった焼いてない食パンと一本のきゅうりを半分こしてかじり
「ごはんあったねぇ！」と無邪気に笑いながら、私をめいっぱい寝かせてくれました。

そして離婚を決意した時。
なぜ離婚したいのかという正直な私の気持ちも、これからの親権や名前の変更などの選択肢も、まだ９歳と７歳の姉弟が真剣に受け止めて話し合い、自分たちで答えを出して、
「ママ、これからきっともっと楽しくなるね」
と笑って背中を押してくれました。

いつもいつも全力で成長して、思いのままにママを振り回しながらぶつかってきた子どもたちが、ママもそのまんまでいいんだよと言うことを教えてくれたような気がします。

そしてその「私らしさ」を自分自身も受け入れられるようになると、不思議なことにそれを理解してくれるかけがえのない人たちにも一気に恵まれるようになりました。

たくさんのしんどい想い、できれば味わいたくなかった経験、忘れてしまいたい出来事、今でも夢に見るほどのトラウマ、私の人生の前半はなかなかのものだったけど。
その人生をずっと一緒に見守って来てくれた人たちと共にいて、私は今生かされている喜びで毎日本当に幸せを感じています。

何故ならその人達はみんな
「あなたはいてくれるだけでいい」と口を揃えて言ってくれる。
がんばらなくても、いい子でなくても、がまんしなくても、私は私でいい。

そしてこの歳で初めて知った、心の奥底のもっと深いところでつながっているとてもとても不思議な感覚。それを教えてくれた大切な人、そして誰より私の味方でいてくれる子どもたちのために、私は今日も前を向いて生きていく。

ここまでとても回り道をしてしまったけれど。

こんな風に思える人生を与えてくれた父と母に心からの感謝をこめて、最後にこの想いを伝えたいと思います。

ー 私は生まれ変わってもまた、私になりたい ー

Profile:平野 礼子（ひらの　あやこ）

平野 礼子さん

１９７６年生まれ　兵庫県在住
幼稚園教諭と接客業の二足のわらじを履きつつ、シングル母ちゃん奮闘中！

明るく前向きなシングルマザー５人によるなんでも人生相談室『Bomva５』所属
Bomva ５
https://www.facebook.com/シングルママんズ-Bomva５-557391051103581/