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リレーでつなぐ"ハート"の話

このページは、リレー形式でそれぞれの人に“愛”をテーマに、恋愛や家族愛、人間愛、パートナーシップ、コミュニケーション、大切な人への想い…などを自由に語っていただくページです。 それぞれの方に半月に1回、計3回ずつご執筆いただき、その方から次にご執筆いただける方を紹介していただく形をとっています。順々に人と人とのつながりの輪が広がっていきます。

2013.07.15(第58回)
♪今回の執筆者♪
寺島 玲子さん(1回目)
(寺島さんの詳しいプロフィールはページ下にあります。)
前回の執筆者 室井 三紀さんから寺島 玲子さんに対するメッセージ

もう10年前になりますが、平家物語を琵琶で語るという連続の企画で、平家の時代のことをお話ししてくださったのが、寺島さんです。
その時、オリジナル曲を創作しようと、源平の戦いの最期、壇ノ浦で海に身を投げ、しかし源氏側に助けられてしまう、平清盛の娘、建礼門院の話を寺島さんが書いてくれることになりました。
折しもイラクの戦争がはじまった時でしたので、寺島さんはイラクの兵士と建礼門院との会話という形の作品を書いてくださいました。
いままで何回も語らせていただきましたが、この作品を好きだと言ってくださる方は多いのです。
今でも色褪せない作品です。
あまり多くを語ることのない寺島さんですが、本当のことは何か、何を伝えるべきか、伝えたいか、いつも考えていらっしゃるのだな、と思いました。
コラム、期待しています。

八月二十四日 三貂(てん)角沖三マイル

 私は自他共に許すおしゃれ人間だ。小学校低学年といえば「全員廊下で一列に!」との先生のかけ声で、シラミ退治のDDTを頭から振りかけられ、白髪みたいになった時代だが、その頃からもはやおしゃれ好きだった。
 高度経済成長なんてまだまだ先の話で、今と比べたら食べ物も着る物も格段に貧しく、雪が降るのに窓には薄いカーテン一枚、裸電球にボットン便所という暮らしだった。 
 でも私はその頃初めて出回ってきたサッカーと呼ばれる布地で母が作ってくれたギャザースカートがうれしくて、貰った余り布でリボンを手作りした。それをピンで髪に留めて学校に行ったら一時間目に早速先生が寄って来た。
 「これは学校に着けてくるものではありません。」先生はリボンを取り上げて持って行ってしまった。「やーい、小島が怒られた!」周りの男の子たちが面白そうにはやし立てた。
 当時の男の子達ときたらみんな揃って青っ洟(あおっぱな)を垂らして、それを上着の袖で拭くから袖口がいつもガバガバ。ズボンのお尻にはハート形の大きなパッチが当たっていて、まるでお猿のお尻さながら。それでも「知ってっか!○○は○○にホの字だよォ!」などといっちょ前に級友をからかったりしていた。

 おしゃれなだけあって私は着ている物を汚さないように着る子供だった。だからっておしとやかだったわけじゃ全然なく、膝小僧なんかしょっちゅう擦りむいて赤チンの絶え間がなかったけど。今思えばともかく洋服が好きだから自然に注意深く着ていたんだと思う。

 父が戦死して母はフルタイムで働いて家族を支えなければならず、帰りが遅いことはしばしばだし、当直もあった。そんなとき私は冷たい寝床で一人で身を縮めながら寝た。―明日はどのスカートを履くかな……それでもやっぱり大好きなことを考えるのだけはやめなかった。
 ずっと前に外国の写真家の撮った「収容所のビーナス」という作品を見たことがある。写っているのはどこかの収容所の食堂とおぼしき雑然とした粗末な場所で、ゴツゴツした机の向こうに、やっぱり粗末な服の若い女がこちらを向いて佇んでいた。人はどんな境遇を生きなければならなくなっても、人間らしい柔らかい憧れを抱くことが出来るンだと、その写真は私に強烈に感じさせた。
 
 大人になって結婚し、四十歳の時に相手を病気で失った。
 「あなた、小島さんの娘さん? 私、あなたのお父さんと一緒の船に乗っていたよ。」
 ラジオ番組の資料集めのアルバイトをしていたとき、山下汽船のOBが集まるクラブで聞き取りの仕事の後、品のいい高齢の紳士が近づいてきてそう言った。

 父は生前、山下汽船の船員だったが、海上輸送の船が台湾のキールン沖で魚雷に当たって沈んだため、私が一歳半の時に亡くなった。母もずいぶん前に他界していたから、その紳士の言葉は私にしてみれば父の亡霊に出会ったような驚きだった。

 若い頃、国際航路の事務長をしていたと自己紹介した紳士は、父の話をいろいろと聞かせてくれた上、父を知っている他の人も紹介してくれた。そしてまるで糸をたぐるように、私は生前の父を知っている元船員の方々と知り合うようになり、元気一杯だった頃の父の話を色々と聞くことが出来たのだった。

 その中の一人で父と同じく船の機関員だったという紳士が船乗りらしい率直さで言った。「あなたのお父さんはとってもおしゃれでね、私はそれが嫌いだった。私は下の機関の部屋から上がると、汚れたまんまの格好で食堂へ行ったもんだが、あなたのお父さんは必ず綺麗な服に着替えてから食堂に来るんだ。」
 当時の船は石炭炊きだということも私はその時初めて知った。そういえば夏の真っ白い制服とは似ても似つかない、真っ黒に汚れたシャツ姿の写真が一枚あったっけ。
 
 仕事熱心だけど、当時の男としては破格におしゃれ。つかみ所がなかった父の姿が少しずつ少しずつ、私の中で形になった。そしてある日突然気がついた。
 「やっぱりDNAだよ、DNA。お父さんて顔も知らないし、手をつないだ記憶もない。だいたい存在したかどうかさえ私の中じゃあやふやなんだわ。だけど私は小さいときからおしゃれだった。それもかなりハードに。」
 おしゃれ心が遺伝するかどうかは知らないけど、それ以来、お父さんとはDNAつながりだもんね、とか勝手に思ったりはしていた。

 そしてあれは何の用事で会ったンだったろうか。一番年の若い叔母の家に用事で出かけた日のことだった。もう用事も済んで何の話のつながりからかは忘れてしまったけど、別れ際に叔母がふッと私に言った。
 
 「兄さんが神戸の港を出る日にね、これで無事に戻れたら陸の勤務に変わるんだ、これが最後の航海だって日にね、私に言ったの。―玲子を可愛がってやってね―って。」

 私は黙って叔母を見つめた。出来ればもっと早く知りたかった、その言葉。だって、それを聞く前と後では人生がガラッと変わっちゃうようなメッセッージだよ、それ。
 でも私は何も言わなかった。そして帰りの電車の中で何度も何度も父の言葉を噛みしめた。お父さん、届いたよあなたのメッセージ。四十年以上も経って届いたよ、私に。
 昔、私をたまらなく愛しい、大切だと思ってくれた人が確かに存在したのだ。母は勿論可愛がってくれたけれど、戦後のきつい暮らし、母自身の再婚等々、いろいろな変遷と共に愛情は少しずつ変質していかざるを得なかった。
 でも父の愛情は生活を経なかったから―それは死という大きな代償があったからなのだけれど―まっさらなまま、手つかずのまま私に手渡された。

 父の乗った船は一九四四年八月二四日、台湾北部三貂角沖三マイルで沈んだ。誰一人生還者はいない。地図で見ると今問題の尖閣諸島の近くのように思われる。あそこで何かがあってニュースの映像が出るたびに、愛しい者を置いて死地に赴かなければならなかった人々のことを考える。

Profile:寺島 玲子(てらしま れいこ)

寺島 玲子さん
1943年、神戸市生まれ。福島県二本松市育ち。脚本、演出、コンサートコーディネート等を手がける。舞台脚本に「スワン」「千回恋して」「ホテル高砂屋」等。また薩摩琵琶、筑前琵琶による「平家物語を琵琶で聞く会」の主催、解説多数。琵琶新曲詞書き及び琵琶と他楽器とのコラボ用脚本なども。
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2015.02.01 :次世代につなぐ絆(挑戦) (宇田川 真由美(うだがわ まゆみ))
2015.01.01 :出逢い(ご縁)から始まる愛 (宇田川 真由美(うだがわ まゆみ))
2014.12.01 :政治家の命は情熱 (桐原 琢磨(きりはら たくま))
2014.11.15 :30年以上人の心に生き続けたことば (桐原 琢磨(きりはら たくま))
2014.11.01 :母の膝小僧 (桐原 琢磨(きりはら たくま))
2014.10.15 :星に願いを 月に祈りを (多伽羅 心彩(たから しんえい))
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2014.09.15 :無償の愛をありがとう (多伽羅 心彩(たから しんえい))
2014.08.15 :自分への愛について (塩澤 政明(しおざわ まさあき))
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2014.07.15 :衣装から伝えられた 愛 (塩澤 政明(しおざわ まさあき))
2014.07.01 :愛は伝わる〜以心伝心〜 (国府田 利明(こくふだ としあき))
2014.06.15 :今を変えなければ明日を作れない (国府田 利明(こくふだ としあき))
2014.06.01 :支える愛 (国府田 利明(こくふだ としあき))
2014.05.15 :感謝するより大切な事 (佐東 界飛(さとう かいひ))
2014.05.01 :愛を知らない世代に伝えるべき事 (佐東 界飛(さとう かいひ))
2014.04.15 :家族の愛とは (佐東 界飛(さとう かいひ))
2014.04.01 :「おお、友よ!」 出会いと友情と歓喜の歌と (鈴木 律子(すずき りつこ))
2014.03.15 :「世のため人のため」「誠は天の道なり」と祖父は云い…… (鈴木 律子(すずき りつこ))
2014.03.01 :「歳歳年年人同じからず」されど、人の思いは連なっていく (鈴木 律子(すずき りつこ))
2014.02.15 :愛することと別離について (賀川 一枝(かがわ かずえ))
2014.02.01 :身近な者を幸せにするということ (賀川 一枝(かがわ かずえ))
2014.01.15 :「共に生きるために」人と農を根幹に据えるアジア学院から教えられたこと (賀川 一枝(かがわ かずえ))
2014.01.01 :マンデラさんの死と「I am not Chinese」 (伴 武澄(ばん たけずみ))
2013.12.15 :八田與一を偲ぶ台南での5月8日 (伴 武澄(ばん たけずみ))
2013.12.01 :スコットランドでの賀川豊彦再発見 (伴 武澄(ばん たけずみ))
2013.11.15 :大宮公園と本多静六 〜大宮からの報告 そのB〜 (新井 孝治(あらい こうじ))
2013.11.01 :何かあったら、まずお氷川さまへ 〜大宮からの報告 そのA〜 (新井 孝治(あらい こうじ))
2013.10.15 :地域で一番の通り目指して 〜大宮からの報告 その@〜 (新井 孝治(あらい こうじ))
2013.10.01 :サクラモヒラという活動 〜バングラデシュに関わった17年 その3〜 (平間 保枝(ひらま やすえ))
2013.09.15 :サクラモヒラという活動 〜バングラデシュに関わった17年 その2〜 (平間 保枝(ひらま やすえ))
2013.09.01 :サクラモヒラという活動 〜バングラデシュに関わった17年 その1〜 (平間 保枝(ひらま やすえ))
2013.08.15 :封建時代が座っていた! (寺島 玲子(てらしま れいこ))
2013.08.01 :避病院への道 (寺島 玲子(てらしま れいこ))
2013.07.15 :八月二十四日 三貂(てん)角沖三マイル (寺島 玲子(てらしま れいこ))
2013.07.01 :猫の事務所 (室井 三紀(むろい みき))
2013.06.15 :義経が好き (室井 三紀(むろい みき))
2013.06.01 :琵琶と旅して (室井 三紀(むろい みき))
2013.05.15 :戦後の話(随想) (西郷 竹彦(さいごう たけひこ))
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2013.04.15 :思い出の記 (西郷 竹彦(さいごう たけひこ))
2013.04.01 :ホワイトバッファローの祈り (美炎(みほ))
2013.03.15 :戻るところ (美炎(みほ))
2013.03.01 :風がふくとき (美炎(みほ))
2013.02.15 :愛を感じる豊かな風景 (廣田 充伸(ひろた みつのぶ))
2013.02.01 :いのちのつながり感じる暮らし (廣田 充伸(ひろた みつのぶ))
2013.01.15 :子どもの誕生と気付き (廣田 充伸(ひろた みつのぶ))
2012.12.01 :NICUのちいさないのち (宮崎 雅子(みやざき まさこ))
2012.11.15 :誕生の場で見つめてきたこと (宮崎 雅子(みやざき まさこ))
2012.11.01 :愛の記憶 (古川 遊(ふるかわ ゆう))
2012.10.15 :愛ゆえに人は苦しまねばならないのか。 (古川 遊(ふるかわ ゆう))
2012.10.01 :哀しみの果てに輝く美しさ (古川 遊(ふるかわ ゆう))
2012.09.15 :そして最高に愛しい人と出会った 米盛 つぐみ(よねもり つぐみ))
2012.09.01 :偉大なる愛の瞬間 至高体験 (米盛 つぐみ(よねもり つぐみ))
2012.08.15 :幾千民族 愛情と戦場 (米盛 つぐみ(よねもり つぐみ))
2012.08.01 :愛するということ (橋本 雅子(はしもと まさこ))
2012.07.15 :「呼吸」には力がある (橋本 雅子(はしもと まさこ))
2012.07.01 :私にできる「小さな愛」 (橋本 雅子(はしもと まさこ))
2012.06.15 :魂は、あなたが気づくのを待っている (鈴木 七沖(すずき なおき))
2012.06.01 :新しいコミュニケーション時代に必要なこと (鈴木 七沖(すずき なおき))
2012.05.15 :「人のご縁」が人生の変容を迫ってくる (鈴木 七沖(すずき なおき))
2012.05.01 :生きざまを残す  (比田井 和孝(ひだい かずたか)
2012.04.15 :どんな仕事でも人を幸せにできる。大切なのはその人の「あり方」 (比田井 和孝(ひだい かずたか))
2012.04.01 :船井幸雄先生の教え「何のために働くのか」 (比田井 和孝(ひだい かずたか))
2012.03.15 :いつも神さまは… (矢島 実(やじま みのる))
2012.03.01 :困難のおかげで気付けた愛 (矢島 実(やじま みのる))
2012.02.15 :116テンポがつないでいくれた愛 (矢島 実(やじま みのる))
2012.02.01 :父からの「愛のバトン」 (片岡 由季(かたおか ゆき))
2012.01.15 :自分を愛するということ (片岡 由季(かたおか ゆき))
2012.01.01 :いつかめぐり会うあなたへ (片岡 由季(かたおか ゆき))
2011.11.15 :「慈愛」の心を持つ努力 (堀内 康代(ほりうち やすよ))
2011.11.01 :愛を失わないためにできる事。 (堀内 康代(ほりうち やすよ))
2011.10.15 :愛を感じる「時」 (堀内 康代(ほりうち やすよ))
2011.10.01 :日常の中で小さな幸せを感じる方法 (眞田 まゆみ(さなだ まゆみ))
2011.09.15 :香りをつかって「愛」を呼び込む方法 (眞田 まゆみ(さなだ まゆみ))
2011.09.01 :スキンシップから目覚める自己革命(眞田 まゆみ(さなだ まゆみ))
2011.08.15 :大切なものを大切にするということ(水村 和司(みずむら かずし))
2011.08.01 :あなたのミッションは何ですか?(水村 和司(みずむら かずし))
2011.07.15 :悲しみのクラスター(水村 和司(みずむら かずし))
2011.07.01 :いちばんたいせつなことって、いったい何?(佐藤 伝(さとう でん))
2011.06.15 :恋は “カゼ”(佐藤 伝(さとう でん))
2011.06.01 :パートナーは、人が運んでくる(佐藤 伝(さとう でん))
2011.05.15 :単純なものに真実がある(中西 学(なかにし まなぶ))
2011.05.01 :本気で叱る、関わり続けるということ(中西 学(なかにし まなぶ))
2011.04.15 :今の自分がいる理由(中西 学(なかにし まなぶ))
2011.03.24 :人生を愛で満たす(原村 和子(はらむら かずこ))
2011.03.01 :愛のバトン(原村 和子(はらむら かずこ))
2011.02.15 :“愛”はすでに自分の中にある(原村 和子(はらむら かずこ))
2011.02.01 :“おめでとう”は器のバロメータ(佐奈 由紀子(さな ゆきこ))
2011.01.15 :“ありがとう”は魔法の言葉(佐奈 由紀子(さな ゆきこ))
2011.01.01 :愛を持って(佐奈 由紀子(さな ゆきこ))



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