リレーでつなぐ"ハート"の話

このページは、リレー形式でそれぞれの人に“愛”をテーマに、恋愛や家族愛、人間愛、パートナーシップ、コミュニケーション、大切な人への想い…などを自由に語っていただくページです。それぞれの方に半月に１回、計３回ずつご執筆いただき、その方から次にご執筆いただける方を紹介していただく形をとっています。順々に人と人とのつながりの輪が広がっていきます。

2014.11.01（第88回）

♪今回の執筆者♪
桐原琢磨さん（１回目）
（桐原さんの詳しいプロフィールはページ下にあります。）

前回の執筆者多伽羅心彩さんから桐原琢磨さんに対するメッセージ

私、多伽羅が次にバトンを引き継いで頂きたいと思い、快く引き受けてくださいましたのは、前・鹿児島県議会議員の桐原琢磨さんです。
桐原さんは障害を持ちながらも、松葉杖の行動派の政治家として県議会議員を二期、８年間の議員活動をされ、今も地域の為に福祉に重点をおき様々な活動をされております。

私とは、関東で開催されました某チャリティーイベントにて、桐原さんが上京された時にご縁があり知り合いになりました。
イベントで沢山の展示や催しものがある中で、私の作品のボディーアートに目を止めて頂き、「僕は鹿児島だけど九州でこんな素晴らしいアート見た事がないですよ」と声をかけていただきました。
この時、腕にアートを施させて頂いたんですが、
「このアートって僕の松葉杖にもできないかな？　できるならお願いしたいなあ」とも言ってくださいました。
桐原さんへバトンを引き継いでお願いしたいと思った理由は２つあります。

一つは彼自身が生まれながら障害を持ちながらも、前へ、そして明日へ、未来へと、人の為、世の為へと、歩き進む姿勢に感銘を受け、尊敬しているからです。

もう一つは、今、日本で議員のあり方が問われ、メディアでも多く報道されています。
その中で彼自身が県議会議員の経験を得たなかでの今の日本と地方を含めた政治、これからの日本の未来へのあり方を語れる人だと思ったからです。

そしてその中で、数々の経験をされた桐原さんが語る愛ってどんな事なんだろうって思ったからです。
知り合いになって約１年半。距離があるのでなかなかお会いできませんが、桐原さんが、先生とか桐原さんとかではなく、親しく呼んでよ、と言ってくださり、今では恐縮ながら、タックンなんて呼ばせて頂いております。

ご多忙中でありながらも、快く引き受けてくださいましてありがとうございます。
タックンよろしくね！
多伽羅心彩

母の膝小僧

　私は、１９５４年鹿児島の霧島という小さな田舎町に３人兄弟の末っ子として生まれました。まるまると太って両親は赤ちゃんコンクールに出そうかと思ったそうです。それが、１歳１か月の時、小児まひという当時は発病すれば死ぬか、助かっても全身や脳に重い障害が残るという恐い病気に罹ってしまいました。今はワクチンもあり、日本をはじめ先進国では撲滅された病気ですが、突然、我が家に降りかかった災難に両親の驚き、苦悩は如何ばかりだったでしょう。

　高熱と全身に麻痺が広がりグッタリした私を背負い、当時町に１軒しかなかった町医者に、２ｋｍの暗い夜道を松明の明かりを頼りに連れて行ってくれた両親と、そこの先生の的確な診断と治療のおかげで一命はとりとめたものの、四肢には障害が残りました。普通なら、そこで諦め私は寝たきりか、座敷を這い這いするだけの一生涯だったかもしれません。
　でも、両親は望みを捨てずに鹿児島市内の小児専門病院に入院させることにしました。　家業は精米業で牛や豚も飼っていたので、母だけが私の看病について来てくれました。　国民健康保険制度も乳幼児医療助成制度もない時代、治療費を払うために、家畜を売り払い、さらに多額の借金が出来たそうです。

　母は、一向に症状が良くならない私を抱いて、病院の近くの岸壁から何度も身を投げようかと考えたそうです。今の私があるのは、母が親子心中を思いとどまってくれたからでもあります。
　これ以上は、良くもならない、悪くもならないという状態で、退院となります。それからは、母は私が何とか自立できるように、そのことを一番に、時に苦しい試練も与えてくれました。
　父が交通事故で４２歳の若さで、私が４歳の時、亡くなった後も私たち子どものことを中心に、特にハンディのある私が、世間の荒波を乗り越えていけるように、外からは守り、内では厳しく鍛えてくれたからこそ、今があるのだと思います。

　母の膝小僧には、まるで入れ墨でもしたように、ゴマ粒大の黒い点々が５個以上ありました。それは、僕が３歳の時、ある人が「今、身体障害者手帳の診断書を作成する医者が来ているから、早く行きなさい。この子の将来のためにも必要だよ」と教えてくれたのです。母がその教えに従ったのは言うまでもありません。私を背負ってバス停まで急いだのですが、当時は、砂利道で、おまけに子供を背負っていてバランスを失ったのでしょう。　母は前のめりに倒れてしまいました。私は子ども心にそれが可笑しくて母の背中で笑ってしまい、母から尻を打たれました。母の膝は砂利で大きく擦りむき、かなり血も出ていました。その時の小砂利が肉に食い込み、生涯取り出せず残ってしまったのです。

　その時のことを、母の晩年、想い出話をしながら、「母さん、この石は僕と母さんの記念だから、母さんが死んだら、お医者さんに頼んで取り出してもらって、僕のものにしてもいいね？」
　「ああ、いいよ、そうしなさい」
とは言ったものの、母の臨終の時は、そんなこと出来るはずもなく、母の膝を撫でながら、「母さん、ありがとう。あの時は痛かったろう？　笑ったりしてごめんね。ありがとう」と言うのがやっとでした。

Profile:桐原琢磨（きりはら　たくま）

桐原琢磨さん

１９５４年鹿児島県生まれ。３人兄弟の末っ子。１歳の時、小児まひのため、左足が不自由になり松葉杖の生活となる。４歳の時、父親が交通事故で死去、以来、母親が女手一つで育てて１９７８年、関西大学法学部卒業、司法試験を目指すが断念、郷里の役場に入職。１９９９年、職場の仲間に請われて、鹿児島県議会議員に立候補、初当選以来、２０１１年４月まで３期１２年在職。現在、障害者団体の役員を務める。