リレーでつなぐ"ハート"の話

このページは、リレー形式でそれぞれの人に“愛”をテーマに、恋愛や家族愛、人間愛、パートナーシップ、コミュニケーション、大切な人への想い…などを自由に語っていただくページです。それぞれの方に半月に１回、計３回ずつご執筆いただき、その方から次にご執筆いただける方を紹介していただく形をとっています。順々に人と人とのつながりの輪が広がっていきます。

2017.09.01（第145回）

♪今回の執筆者♪
藤田裕之さん（１回目）
藤田裕之さんの詳しいプロフィールはページ下にあります。）

前回の執筆者　柱本（藤田）めぐみさんから藤田裕之さんに対するメッセージ

私からのバトンは、京都市の前副市長、藤田裕之さんが引き継いでくだることになりました。現在もレジリエント・シティ京都市統括監として大変お忙しい中、このブログをお引き受けいただいたこと、とても嬉しく思っています。　
藤田さんは、長年にわたり教育委員会で学校教育に取り組まれました。更に区長としては積極的に地元の方々との交流を深められ、その連携によって市民生活の活性化に尽力されるなど、さまざまな実績を積んでこられた方です。また、文化的な面でも造詣が深く、殊に音楽についてはご自分でもピアノを楽しまれるほどの方ですから、いつお会いしても話題も豊富で、私もいろいろと勉強させていただいています。多くの経験を重ねる中で、常に人との関わりを大切にしておられる藤田さんのブログは、素敵なものになると楽しみにしています。なお、私の歌手名と同じ苗字ですが、親戚ではありません。念のため。

藤田（柱本）めぐみ

愛の原点は「レジリエンス」

　皆さん、はじめまして！今回から三回、当コラムを担当させていただきます藤田裕之と申します。この３月まで公務員をしており、いささか堅い話になってしまうのではないかと危惧していますが、折角のご縁でバトンを繋がせていただくのですから、頑張って努めさせていただきます。

　と言いながら、いきなり表題から「レジリエンス」なる難しい言葉を引っ張り出してしまいました。おそらくコラムをお読みの方でも、「はい、知ってますよ！」と言う方は少ないでしょうね。まずは言葉の説明になりますが、ちょっとお付き合いください。
　「レジリエンス」とは、もともと物体がもとに戻ろうとする力、「復元力」「反復力」といった意味だそうですが、人の心がポキッと折れないしなやかな強さ、粘り強さ、打たれ強さ、さらには自然界で災害や気候異変の際にも生物が復活する状態を指す言葉です。　近年、その概念を社会、組織の在り方、さらには都市にも当てはめ、都市のレジリエンス、あるいはレジリエント・シティと言った表現で用いられるようになっています。
　私の現在の肩書も、実は、そのレジリエンスを、５０年、１００年先も見据えて展開するため、アメリカのロックフェラー財団が世界各都市に募集を行い、賛同した１０００以上の都市の中から１００都市を選んだ「レジリエント・シティ」に由来します。そしてこの取組のため、各都市に必ず一人ずつアドバイス役が配置されることになり、その名称が「チーフ・レジリエンス・オフィサー（ＣＲＯ）」、日本語ではレジリエンス統括監なのです。

　さて、レジリエンスなる言葉が、世界で初めて多くの人々の口に出されたのは、２００１年９月１１日のニューヨークでの同時テロ事件でした。アメリカの繁栄の象徴とも言うべきワールド・トレード・センター（ＷＴＣ）の超高層ビルに、ハイジャックされた旅客ジェット機が２機、続けて激突するという、世界を震撼させた事件において、事件前後にどのような危機管理が行われたのか、また惨状からどのように立ち直るのか、家族や最愛の人々を失った方の心をどのように支えていくのか、それら全てを包み込んだ概念が「レジリエンス」だったと言えるでしょう。

　今年７月、ニューヨークで私を含め世界各国のＣＲＯが一同に集う会議が行われた機会に、私もＷＴＣの跡地に設けられた記念館に行って来ました。
　ハイジャックされた機内から最愛の家族に最後に送られた生々しいメッセージ、救出に向かうビルの中で二次災害に遭った消防士の勇敢な姿、異国の地で最先端のビジネス業務に従事していた多くの日本人の遺影……、本当にいたたまれない思いになりました。
　同時に、一見、このうえなく便利で快適な都市の繁栄が、かくも脆弱な基盤の上に成り立っているのかという現実を思い知らされる結果にもなりました。

　スミマセン！そろそろ、コラムのテーマである「愛」に話を戻しましょう。実は、レジリエンスの意味をひと言で説明するのは難しいのですが、反対語は何かと考えると意外と解り易いかも知れないですね。マザー・テレサの「愛の反対語は無関心だ！」という名言がありますが、「レジリエンス」の反対語は、「今さえ良ければ、自分さえ良ければ」という「刹那主義」、「利己主義」だと言えそうです。もちろん、それだけでなく、想定外という言い逃れをあらゆる場面で排除する（役人には耳が痛いですね！）ことや、「ピンチはチャンス！」といった前向きな態度も、この言葉に含まれている大切な意味でしょうが、大前提は最初の二つの落とし穴に嵌らないことだと思います。

　では、「今さえ良ければ」という気持ちを克服するためには、どのような姿勢が必要でしょうか？　もちろん、自分自身の将来のためという意味も含まれるでしょうが、５０年、１００年先のことを思い描くなら、子や孫、さらにその先の世代のこと、さらには人類の未来、地球の歴史まで視野に入れて、愛を語れる壮大な価値観が大切だと思います。
　また「自分さえ良ければ」という落とし穴は、物質的に豊かで、感謝の気持ちを忘れがちな現代社会では、避けて通れないものでしょう。この世の中に、自分が可愛くない人はいませんし、自分を大切にできることは、周りの人にも思いやりを持つ上で、絶対条件です。
　その意味では、まず自分を、そして家族を大切にすることは不可欠であるわけですが、ご近所や地域はもちろん、社会に存在する全ての生命に感謝の気持ちを持つことが、本当の意味で自分も大切にするということなのでしょう。
　まわりの人への思いやりやいたわり、そうした愛が体現できる人こそ、レジリエントな人と言えると思います。
　「レジリエンス」、「レジリエント・シティ」という舌を噛みそうな難しい言葉も、こうして掘り下げてみると案外簡単な糸口がありそうです。
　次回は、子どもたちや次の世代への愛について、レジリエンスの概念もからめて述べたいと思います。

Profile:藤田裕之（ふじた　ひろゆき）

藤田裕之さん

昭和３０年７月８日　兵庫県尼崎市出身（６２歳）
京都大学教育学部　卒業後
昭和５７年４月　京都市採用（教育委員会事務局）
平成１６年４月　教育委員会生涯学習部みやこ子ども土曜塾担当部長
平成１７年４月　教育委員会生涯学習部長
平成２２年４月　右京区長
平成２５年４月　副市長（２９年３月　任期満了に伴い退任）
　　　　　　　　福祉、保健、文化・芸術・スポーツ、教育、区行政、
　　　　　　　　危機管理、国際交流、上下水道などを所管
平成２９年４月から「レジリエント・シティ」京都市統括監

趣味：クラシック音楽、自己流のピアノ、ゴルフ、孫もり