写真
2010年にんげんクラブ全国大会ステージ上にて
(写真撮影:泉浩樹)

「天律時代」の到来に向けて

このページは、(株)船井本社社長で「にんげんクラブ」を主催する船井勝仁によるコラムページです。船井勝仁は「これから“天律時代”が来る。そして一人ひとりが“うず”を作っていくことが大事になるだろう」という思いを持っています。それをベースにおいた日々の活動の様子や出会い、伝えたいことなどを語っていきます。

また、「船井幸雄の息子」ではなく、“船井勝仁”の独自性をさらに打ち出していくこともテーマに、これまで父に寄せてきた思いや、「二代目社長」としての方針も語っていきます。

左上 「うず」のイメージ(画:西口貴美)
2011.10.21(第31回)
ドイツ参謀本部

 こんにちは。船井勝仁です。
 にんげんクラブのブログ(会員専用ページになります)で、「東京裁判」というタイトルでコラムを書かせていただきました。個人的にはあまり国粋的なものの見方は好きではありませんが、最近明治から昭和初期の歴史について興味を持って、主に文庫や新書になっているこの辺りの歴史関係の本を読むようになったのですが、東京裁判は東條英機等のA級戦犯を裁いた日本にとってはなるべく思い出したくもないつらいものと捉えるのではなく、きっちりとそこで何が議論されていたのかを見直すことはとても重要なことだと思うようになりました。
 そんな中で上智大学の渡部昇一先生の東京裁判に関する著書を久しぶりに拝読し、切れ味鋭い論法を懐かしく思っていました。そして、最近祥伝社新書より再発刊された先生の1974年の名著『ドイツ参謀本部』を読んで日本の今の官僚制度の淵源をのぞき見ることができたように感じています。
 詳しくは同書を読んでいただければと思いますが、ヨーロッパの歴史を考えると、1618年〜1648年という日本で言うと江戸時代の初期に起こった三十年戦争というすさまじい戦争の反省からフランス革命を経てナポレオンが登場するまでは、戦争と言っても議論の決着がつかなかったときの最終手段としての戦争で、あくまで国王同士の限定的な戦争でした。
 それがフランス革命で徴兵制度をひくことが可能になり、その圧倒的な力でナポレオンがヨーロッパ中を席巻することになりました。そんなナポレオンのフランスに対抗するために、ドイツにあったプロイセン公国にできた制度が参謀本部という制度でした。1808年にシャルンホルストが参謀総長に就任して、その基礎を固めました。そして1813年にナポレオンを破り、エルバ島に追放することに成功するのです。
 兵站(へいたん=戦闘部隊の後方にあって、人員・兵器・食糧などの前送・補給にあたり、また、後方連絡線の確保にあたる活動機能。「ロジスティックス」(物流企業の物流合理化の手段)の語源でもある)が戦争にとって重要なこと等を著した名著『戦争論』の著者クラウゼビッツ等の名参謀総長を排出しましたが、宰相ビスマルクと参謀総長モルトケの時代にピークを迎え、普墺(ふおう)戦争、普仏戦争に圧倒的な勝利を収めることで、日本の明治初期にあたる1871年にはプロイセン王ヴィルヘルム1世は初代のドイツ帝国皇帝に就任することになります。
 しかし、その後の参謀本部は政治のコントロールがないままに第一次世界大戦でシュリーフェン・プランという軍事作戦を外交的な側面をまったく考慮することなく推し進めることで、結果的にはドイツの敗戦をもたらしドイツ帝国が滅びる原因になり、ヴァイマル共和国が生まれます。そして、やがてヒトラーを産む土壌を作ってしまうのです。
 面白いのは、このドイツ参謀本部が現代の日本にも大きな影響を及ぼしているということです。明治の日本陸軍は大村益次郎が率いていた初期にはフランスにまねた制度をひいていたのですが、モルトケの懐刀と言われたメッケル少佐を陸軍大学校の教官に迎え入れることでドイツ流の制度をひくことになります。
 何年か前に放映されていたNHKの「坂の上の雲」の中で阿部寛さんが演じていた日本騎兵の父と呼ばれる秋山好古(あきやま よしふる)陸軍大将が陸軍大学の第一期生としてメッケルの講義を受ける場面がありましたが、日露戦争までの栄光の日本陸軍の基礎を作った遠因もドイツ参謀本部にあったというわけです。
 話を戻すと、ヨーロッパの歴史はよくも悪くもドイツを巡る歴史です。ビスマルクとモルトケという仲は決して良くなかったようですが、互いを尊敬していた外交と軍事の天才に率いられていたプロイセンがドイツを統一した事が、2度にわたる世界大戦の遠因になっていますし、それを封じ込めるためにEUという壮大な実験を現在でも続けていて、いまのユーロ危機の原因にもなっているのかもしれません。
 ヨーロッパの歴史とこれからの在り方についてはいずれ論じたいと思いますが、次回はドイツ参謀本部が日本の官僚制度につながって行った経緯についての私論を書かせていただきたいと思います。

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Profile:船井 勝仁(ふない かつひと)

1964年 大阪生まれ。1988年 (株)船井総合研究所 入社。1998年 同社 常務取締役。同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。2008年 (株)船井本社 代表取締役社長就任。父・船井幸雄の「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築くことが本来の自分の役割だ」という思いに共鳴して、持ち株会社である同社の代表取締役社長として父をサポートすることを決意した。 著書には、『中堅・中小企業のためのIT化時代の「儲け」の決め手』(船井幸雄らとの共著 2003年 ビジネス社)、『天律の時代が来た! 生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『いま明かされるコトダマの奥義』(2011年1月 新日本文芸協会)などがある。
いま明かされるコトダマの奥義
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