写真
2010年にんげんクラブ全国大会ステージ上にて
(写真撮影:泉浩樹)

「天律時代」の到来に向けて

このページは、(株)船井本社社長で「にんげんクラブ」を主催する船井勝仁によるコラムページです。船井勝仁は「これから“天律時代”が来る。そして一人ひとりが“うず”を作っていくことが大事になるだろう」という思いを持っています。それをベースにおいた日々の活動の様子や出会い、伝えたいことなどを語っていきます。

また、「船井幸雄の息子」ではなく、“船井勝仁”の独自性をさらに打ち出していくこともテーマに、これまで父に寄せてきた思いや、「二代目社長」としての方針も語っていきます。

左上 「うず」のイメージ(画:西口貴美)
2012.10.21(第67回)
常識的な見方と直感力

 常識的な見方をすると、しばらくは大きな金融的なインパクトは起こらないのではないかと思います。
 まず、アメリカですが大統領選挙の最中です。私はオバマ大統領が現職の強みを活かして勝つのではないかと思っていますが、ロムニー候補が勝っても経済的にはそれほど大きなインパクトはないのではと思います。
 アメリカの経済的な利害の第一は米ドルが基軸通貨であることを何があっても守ることです。現在の金融テクノロジーが進んだ世界で基軸通貨を握っているということは限度額無制限で返済額をいつでも減額できるクレジットカードを持っているようなものです。
 ユーロの台頭や中国をはじめとするBRICs諸国のすさまじい経済発展が注目されていた少し前は、近い将来米ドルが基軸通貨で無くなる可能性があるという議論がありましたが、ユーロはどちらかと言うと崩壊の危機にあるという議論がなされていますし、中国はそもそも先進国としての国のあり方がわかっていないのではないかと言われ始めています。そう考えると、基軸通貨である米ドルの立場を脅かすような通貨は当面は見当たらないことになります。
 そうなると、上記の夢のようなクレジットカードを使いまくれば、アメリカの金融システムには何の問題もないということになります。国内で力をつけてきているリバータリアン(=自由主義思想の中でも個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する主義の人たち)の勢力が新たな赤字国債の発行を認めなくなるというリスクがあるぐらいです。

 一方、問題山積みのユーロですが、どの加盟国にとっても結局ユーロに留まるのが一番利害にかなっており、ユーロからの離脱が相次いでシステム自体が崩壊してしまう可能性はほとんどないと思います。
 ギリシャやスペインなどの問題国の債務を結局はドイツが面倒をみるという体制を取ることになり、いつまでもドイツが他国の借金を払い続けることは難しいという議論がなされています。しかし、そもそもユーロというシステムができて一番恩恵を受けているのがドイツです。
 ユーロができていなければ、ドイツの通貨はドイツの経済状況を反映してもっと強くなっています。しかし、ギリシャやスペインなどの国を抱え込むことによって、ドルや円に対して安い通貨を使えることになりました。それを強みにしてドイツの輸出産業は絶好調な状態を続けています。
 これを日本に当てはめて考えてみるとわかりやすいのですが、首都圏だけが独立すれば、(首都圏の)円はいまよりもはるかに円高になり、貿易で考えると苦戦することが予想されます。しかし、その他の地方も日本に抱え込むことによって(首都圏の)円は実力よりも安くなり、その結果、貿易で勝負することが可能になっているのです。その代わり、首都圏の所得は様々な仕組みを使って地方に再配分するようになっています。

 ドイツが首都圏と同じように、ユーロができたことによって余分に得た所得を地方(特に経済的に弱い南欧諸国)に分配することを覚悟さえすればユーロの問題は解決します。

 世界の先進国という学校には、アメリカドル、日本円、ユーロという3つのクラスがあると仮定します。ユーロというクラスにはドイツという優等生もいれば、ギリシャという裏口入学してきた生徒やスペインという昼寝ばかりしている勉強のできない生徒もいますが、平均点を取ればライバルの米ドルや日本円よりもまだまだ高い点を取っています。
 それは、ギリシャはゴールドマンサックスにそそのかされて飛ばし(ちなみにTobashiはTsunamiと同様、世界の金融関係者の間で立派に通用する言葉になっているそうです)を使ってごまかしましたが、厳しい財政規律が課せられていますので、アメリカや日本よりもまだまだはるかにいい財政状態をキープしているのです。

 実は財政状態から考えれば、先進国の中で一番問題があるのは日本です。しかし、日本もいまの世界情勢の中で、量的緩和を続けざるを得ないことを考えると、当面、国債の暴落をきっかけに円が大暴落するというシナリオも考えにくいのです。銀行の段階ではお金が余っており、その運用先は国債しかないからです。そして、その国債を買い続けることで銀行は好業績を上げているのです。
 ただし、こんなことはいつまでも続かないのも確かです。あるアメリカの大手投資銀行の平均給与は金融危機前の2007年には7,000万円を超えていました。それが2011年には3,000万円に激減したそうですが、平均給与が3,000万円ですから、まだまだ人をバカにした話です。でも、一度多額の給与を貰った人はそんな高給でも満足できないということになって、ますます大きなバクチを打ってでも儲けてやろうとするのです。
 だから、大バクチの結果出てくる損失もどんどん大きくなってきています。1990年代には投資銀行が数百億円規模の損失を出したら、金融マーケットの崩壊を懸念されるような大ニュースになりましたが、いまではその程度ならプロが読む金融ニュースで一行ぐらいのニュースが流れて、それで誰も気にしないで終わってしまいます。危機の規模が2桁から3桁大きくなってしまいました。
 いくら金融テクノロジーが進んだとはいえ、やっぱりいつかは破綻するのだと考えるのが正常な感覚というものです。問題は、それがいつやってくるかで、それはいまのところ残念ながら直感力の領域になるのではないかと思います。
 自然のリズムに則った生き方をして、感性や感覚を研ぎ澄ましながら、危機のタイミングとその対処法を真剣に考えていくべき時がそろそろ来ているようです。

『未来から考える経営』表紙画像
『未来から考える経営』
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Profile:船井 勝仁(ふない かつひと)

1964年 大阪生まれ。1988年 (株)船井総合研究所 入社。1998年 同社 常務取締役。同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。2008年 (株)船井本社 代表取締役社長就任。父・船井幸雄の「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築くことが本来の自分の役割だ」という思いに共鳴して、持ち株会社である同社の代表取締役社長として父をサポートすることを決意した。 著書には、『中堅・中小企業のためのIT化時代の「儲け」の決め手』(船井幸雄らとの共著 2003年 ビジネス社)、『天律の時代が来た! 生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『いま明かされるコトダマの奥義』(2011年1月 新日本文芸協会) 、『未来から考える新しい生き方』(2011年9月 海竜社)、『失敗から学ぶ』(2012年7月海竜社) 、『未来から考える経営』(2012年10月 ザメディアジョン)などがある。
『未来から考える経営』表紙画像
★にんげんクラブ:http://www.ningenclub.jp/
★船井勝仁.COM:http://www.ilir.co.jp/funai_katsuhito/

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